サブスクリプション(以下、サブスク)の中でも大きな可能性を秘めている一つに自動車のサブスクがある。トヨタ自動車の「KINTO(キント)」は、2019年に同サービスを開始した。販売店での購買体験イメージが強い自動車だが、KINTOはWeb上での車の購買体験という新たな領域を確立させるとともに、20~30代の若年層から多くの支持を得ている。そんな同サービスは、どのような歩みを進めてきたのか。 イメージ戦略の軌跡とともに、同社マーケティング企画部副部長の藁谷直樹氏に聞いた。
不安の見える化がサブスクへとつながる
従来の車の購入といえば、販売店へ足を運んで購入後、保険やメンテナンスなどの必要経費を都度支払いながら乗り換えなどのタイミングまで所有するのが一般的だ。しかし、KINTOは月額費用に保険、税金、メンテナンス料などが全て含まれる定額サービスだ。契約期間中でも、中途解約や一定条件を満たせば乗り換えが可能になるのが、従来の所有との大きな違いとなる。
トヨタ自動車は、販売店を通じた地域密着型のきめ細かな営業活動を行ってきた。そんな同社が車のサブスクを開始した背景には、時代に合わせた柔軟な選択肢を提供したい思いがあった。車で自由に移動して楽しむ価値は、年代を問わず今も昔も変わらない。しかし、経済的な理由や検討のプロセスに何らかの不便を感じ、所有へ至っていないケースが一定数あったのだ。KINTOが申込から契約までをWebで完結できるようにした理由も、そのニーズへ応えるためだった。
車の所有経験のないユーザーにとって、所有に伴う経済的負担は大きな不安要素だ。20~30代を中心とする若年層を中心に、車体費用以外に発生する任意保険やメンテナンス費用などの負担を危惧する声が多かった。そして、その不安を解消するために販売店へ行こうとしても、そもそも車がないので行きにくい。
「若年の車離れが加速する中で、お客さまの不安解消と多様な選択肢を追求した結果が、どんなお客さまでも一定月額で利用できるサブスクリプションモデルでした。Webサイトで車種も月額費用も全てご確認いただけるので、何度でもゆっくりご検討いただけます。契約まで完結できるのも新たなメリットです」と藁谷氏は話す。