昨年、今年とクラウドサービス最大手のAmazon Web Service、Google Cloud、Microsoft Azureが、こぞって提供を開始した領域がある※1。それは量子コンピューターだ。量子コンピューターと聞くと、まだまだ先の話と考えている読者も多いかもしれない。しかし、手元のコンピューターでクラウド環境を経由して量子コンピューターを操作できる未来が、既に来ているのだ。
※1 AWS BracketGoogle Cloud MarketplaceAzure Quantum

 株式市場もこの未知の領域に熱視線を送っている。経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)によれば、2020年の量子コンピューターへの投資額は前年のほぼ3倍になり、2021年にはそれを上回る予定だ。また、量子コンピューターは今後15年から30年で4500億ドルから8500億ドルの価値を生み出すと想定している※2。実際に今年の10月には量子コンピューターのスタートアップ「IonQ」が、特別目的買収会社(SPAC)との合併を通じてニューヨーク証券取引所に上場を果たした※3
※2BCG「What Happens When ‘If’ Turns to ‘When’ in Quantum Computing?
※3IonQ「IonQ Becomes First Publicly Traded, Pure-Play Quantum Computing Company; Closes Business Combination with dMY Technology Group III.」

 そんな注目を集めている量子コンピューターは何がすごいのか。それは一言でいえば、膨大な計算が必要な場合に、そこから最適なものを見つけ出すスピードである。そもそも量子コンピューターとは量子力学の原理を応用したコンピューターで、その量子の特徴である重ね合わせ状態を利用することで、少ない処理回数の中でもさまざまな状態を計算し、“最も確からしい”解を出すことを可能にしている。

 なぜ、やや回りくどい言い方をしているかというと、量子コンピューターは万能ではないからだ。ここがビジネスへの応用を考えるポイントとなる。量子コンピューターが得意な領域は、あくまでも膨大な計算量が想定される際に、より最適なものを取り出すようなケースである。

 一方で、既に通常のコンピューターでも実施されているような一回一回の計算が早くなるわけではない。例えば、給与計算のように決まった計算を重ねて解を一意に決めなければならないような場合には量子コンピューターには向いていない。

 そのため、応用が期待されるような領域としては、創薬や金融関係(ポートフォリオの最適化など)、機械学習、新材料の開発、暗号化といった分野が挙げられることが多い。本記事では、これらに加えてマーケティング面での応用の可能性を深掘っていく。

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