5年、10年スパンで事業戦略を考える際のキーワードになる

 ここまで量子コンピューターの良い面について述べてきたが、もちろん、課題もまだまだある。

 まずは量子コンピューター自体のハード面の課題である。具体的には、量子を安定した状態に保つことが難しく計算エラーが発生してしまう点や、一つのマシンで利用できる量子ビット数に制約があり、解決できる問題のサイズが小さい点などだ。世界中で各社が開発を競っているが、なかなか難しい課題となっている。

 こうした中で、今年の5月にGoogle は、2029年までに有用でエラーが訂正可能な量子コンピューターを開発すると発表した※4。もちろん、これは現段階での見通しにすぎず前後していくであろうが、世界中の過熱ぶりから資金が投入されていき、開発が加速していくことを考えれば、そう遠くはないことが予想できる。

 その次に課題となってくるのが、開発環境や人材も含めたソフト面である。量子コンピューターを活用した処理アルゴリズムを書くには、量子力学も含めて非常に高度な知識が必要になってくる。そういった人材を企業が集めるのは現実的ではないため、量子コンピューター上で動作するソフトウエアの整備が普及への必須条件として待ち望まれている。

 具体的には、通常のコンピューターで使われる言語や書き方を用いてプログラミングが行えるような環境である。さらに、こうしたソフトウエアの開発以外にも、IBMでは量子コンピューターに関する認定資格を開始していて※5、今後、人材育成に関わる分野への取り組みも盛んになっていくであろう。
※4Google「Unveiling our new Quantum AI campus」
※5IBM「Fundamentals of Quantum Computation Using Qiskit v0.2X Developer」

 ここまで量子コンピューターの展望を紹介してきた。今年や来年で劇的に変化があるというわけではないが、5年、10年というスパンで事業戦略を考える際には、念頭に置きたいキーワードであることには間違いないだろう。

 考えようによっては、自社の強みを生かす方向にも捉えられるが、同時に競合他社が活用したことによって、自社の競争優位が脅かされることも想定する必要があるかもしれない。いずれにせよ、今後の量子コンピューターの動向を注視し、不足の事態への備えは必須と言えよう。

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