1998年 電通入社。企業のコンサルティング、マーケティング、クリエイティブ、コンテンツ、メディア活用等を推進。2019年から電通デジタルに参画し、人間とテクノロジーを中心とした次世代マーケティング「People Driven Marketing」を実施。アカウントプランニング部門長、アドバンストクリエーティブセンター長を経て、現・代表取締役社長執行役員。

 7月に電通アイソバーと合併し、新体制でスタートした電通デジタル・川上宗一社長に話を聞いた。新生・電通デジタルとしての狙い、デジタル時代におけるマーケティングの位置付け、そして人を幸せにするテクノロジーとの向き合い方など、話は多岐に及んだ。

新生・電通デジタルが取り組むことと目指すもの

――電通アイソバーとの合併について、決断の理由はどういうところにあったのでしょうか?

川上宗一(以下、川上) 理由としては、クライアントのために2社合併の意思決定をしたというところです。背景は2つあって、まず、コロナでビジネスの在り方がすごく大きく変わったこと。昨年の2月から皆さん在宅勤務になって、企業の働き方が大きく変わりましたよね。今まで対面でものを売ったり、お客さまに直接接してきた企業がこのタイミングで、DXに本気で取り組まないとサバイブできないという話になった。

 電通デジタルにも電通アイソバーにも、事業成長のためにDXにいくら投資して、どんなことを行っていけばいいんだという相談がすごくくるようになったんですね。スピード感を持ってこれに応えるには、バラバラにやっているよりも2社が統合して、規模感を持って向き合った方が必ず質のいいサービスが提供できるのではないかと電通アイソバーの幹部と話をして、じゃあ一緒になろうと。

 型通りにシステムを「入れて終わり」ではクライアントの社員は全然幸せにならない。システムを導入するという形だけのDXではなくて、本当にDXをやろうとすると、こういった規模感の企業を作ってクライアントと並走していくことが必要だろうということです。

 2つ目の背景は、電通グループ自体が取り組んでいる構造改革です。これまで電通グループが120年かけて積み上げてきたケイパビリティを、デジタルを前提にして全部アップデートする。

 どういうことかと言うと、AX(Advertising Transformation)、BX(Business Transformation)、CX(Customer Experience Transformation)、DX(Digital Transformation)と呼んでいますが、それぞれがつながって有機的にクライアント企業のDXを推進しています。そのBX、CX、DXの領域を強化できるということを狙って統合したということ。X(トランスフォーム)に対して電通グループが本気になるという象徴的な狙いもあってのことですが、これは内側の話です。あくまで、メインはクライアント企業のために、ということです。

――規模感を持つことにより、どうしたことができるようになるとお考えですか?

川上 先ほど申し上げたAX、BX、CX、DX。そのABCD全部を備えてトランスフォームしていくという目的で作った電通デジタルと、CXで協業していた電通アイソバーを統合して、より質を高め、グローバルでもやっていくことになります。

 電通アイソバーはCXデザインファームということで、プランニングからエンジニアリングの部分まで、顧客体験をどう豊かにしてくかをずっとやってきました。Isobarブランドの日本拠点を担ってきましたが、グローバルネットワークでは世界51のマーケットで展開する電通のクリエーティブエージェンシーをリードしてきた知見があります。この統合で今後、国内だけではなくグローバルのグループ企業と連携しながら、より大規模なBX、CX、DXをクライアントに提供できる形になりました。

 DXはある程度の規模がないと、実現できないんですよね。グローバルという点でも、日本企業がAmericasであったり、APACであったり、EMEAであったり、いろいろなところに進出したいという、その目的に応じたDXもあります。

 逆に、海外のテック企業が日本法人を作って日本でビジネスしたいという、輸入型のDXもあります。その両方を電通デジタルで一手に引き受けるという、そうした企業体になっていこうということです。

――新生・電通デジタルが目指す姿はどのようなものでしょうか?

川上 今、クライアント企業の方々はこのコロナの状況でどうビジネスをしていこうかとすごく真剣に考えられています。電通デジタルも電通アイソバーも、テクノロジーに関しては一家言ある集団なので、われわれのテクノロジーの知見を使ってクライアントの悩みを解決してクライアントを活性化していく、それがやっていきたい一番大きなところですね。

 大きくて歴史のある企業ほど、ビジネスの型がそれぞれ浸透しているので、例えば、組織を変えたら急にうまくいくということではないんですね。人の能力が変化するわけではありませんので。外資系の企業でもそうですし、そこが、ほぼどの企業にも共通したDXの課題になっています。DXの需要は増えているけど、うまくいかない、なかなか成果が見えない。そこの相談がすごく増えています。

 具体的に頂く課題で一番大きいのが、DXはもちろんやりたいし、投資もしているけれど、なかなかうまく回らないというところ。話を伺ってみると、経営者層がやりたいDXと、事業部門がやりたいDX、情報システム(情シス)や経営企画の部署がやりたいDXとあって、皆さんDXはやりたいのに、それぞれちょっとずつズレている。

 共通言語がなくて、違ったところを見ている感じなんですね。情シスはシステムをアップデートする、それがゴール。でも、一方で事業部や営業部からは「システムは新しくなったけど、むしろ使い勝手が悪くなったね」みたいな声が出てきてしまう。投資して、システムも入れたのにうまくいっていないという相談が本当に山のようにくる。

 それに対し、いろいろな部署の方と話して、相談して、クライアント企業の社員の立場に立って、どうしたら皆さんにとって本当に良い形のDXが実現できるのかをひたすらやっていく。そして、それによって企業の先にいるお客さま、生活者の方々、B2Bの場合はビジネスパーソンになりますが、お客さまにより良い経験、体験をどうやったら与えられるかを追求していく、そこを目指しています。