デジタル時代、そしてコロナを機に顧客はどう変化している?

――電通デジタルは2016年7月設立ですが、設立以降の顧客の変化をどう捉えていますか?

川上 まず1つは、いわゆる一部上場の昔からある大企業のマーケティングのロジックが思い切りデジタル前提になったということがありますね。2016年当時も、もちろんその兆しはあって、それで電通デジタルが発足したんですが、今はその時よりもデジタルに対する比重が非常に高い。5年前は既存のマーケティングにデジタルを追加するようなものだったのが、基本的にデジタル前提でプランニングを考えるようになった。この5年間で、デジタルの要素がないマーケティングはもはやないという形に、あらゆる企業が変わったという感じがします。

 一方で、もともとデジタルを主戦場にしていたダイレクト系の企業がブランディングにシフトしてきています。もともとデジタルマーケティングに予算を投下していたんですが、逆に、ブランドの世界観を展開したストーリーを提示する、ブランドとしていかに素敵な世界観を見せるか、出合い頭に無理やり買ってもらうのではなく、好きで買ってもらうにはどうすればいいか、という文法に変わってきたというところがあります。この5年間で、それぞれのビジネスの歴史を持つ両者が混ざり合ってきたという印象ですね。

――顧客の変化でいうと、日常の生活が今、全てデジタルに包まれているという言い方をする人もいますが。

川上 基本的にはデジタルが前提にあって、コロナでますます外に出ることが難しくなって、家でショッピングするという世界になりましたよね。皆さんがデジタルを使いこなして、それぞれの暮らしを楽しんでいくという方向にシフトした。コロナ明けにリアルな部分もまた戻ってくるとは思いますが、リアルな部分とデジタルな部分がバランスよく生活者の中で整っていくだろうと思います。

 1つ大きく変わったのが、購買・決済の部分で、例えばPayPayのような非接触型の決済サービスが一気に日本人の中で広がり、今までお財布から現金でお会計していたのが非接触になったことです。コロナが明けてフィジカルに人が集まるようになっても、これは戻らない。渋谷に行って買い物をしたとしてもお会計はPayPayで、という形になる。そこを使ってどういうデータマーケティングができるかというのは、これからさらに進化していくと思います。

 OMO(Online Merges with Offline)といわれるスタイルが、従来のO2O(Online to Offline)的なオンラインとオフラインで送客し合うというイメージから、オンラインとオフラインが1つに融合したもの、という方向にシフトするだろうと思います。今、われわれも、次世代のショッピングに関して、さまざまなプラットフォーマーや流通各社の方々と一緒にプランニングをしていこうと議論をしているところです。

――非接触型の決済サービスの普及に伴い、そこから得られるデータにはどういう可能性があるとお考えですか?

川上 データに関しては、もちろん大前提として、プライバシーの侵害や生活者の許諾なしに好き勝手には使えません。でも、生活者がこのデータはOKだよと許諾してくれたデータに関しては、企業がそのデータを受け取って、生活者にとってより良い商品、より良いサービスを提供していくことにつないでいく。かゆいところに手が届くというか、気の利いたオススメのような、よりパーソナルなレコメンドサービスがどんどんできるようになると思います。

 このとき、軸になるのはスマートフォン。さまざまなエンタメを楽しみながら、例えば、TwitterやFacebookでつながる、LINEで友だちに連絡を取る、その場で欲しいものを買う、というのは非常に便利ですし、スマートフォンは無理なく生活者の暮らしの中にベネフィットを与えていると思うんですよね。

 このスマートフォンを軸に、企業と生活者がつながっていって、より良いコンテンツ、より良いサービス、より良い商品を気持ちよく提供する、生活者はそれをつまずくことなく享受できる、という世界観は必ず進んでいくと思います。

 今は家の中でスマートフォンを使っていますが、ワクチン接種が進んで屋外に出られるようになったとき、スマートフォンのデータと接続して、スマートフォンの中だけではなく、外にどうその世界観を広げていけるかが、次のタイミングの打ち手になってくるはずです。渋谷や新宿、池袋とか歩きながらスマートフォンのデータとどう接続して新しいものを提供できるか、そこが面白いところになってくると思います。

――スマートフォンを持って街に出ていくようになったとき、というのは、具体的にはどういう世界をイメージしていますか?

川上 例えば、服を買うとき、今、普通に検索しますよね。Instagramでかわいいなと見たり。お店に行ったときにその検索履歴を土台にして、この人はこれを見たからと、クーポンや付帯情報のレコメンドが送られてきたり、在庫情報が分かったり。逆に、お店に行って、いいなと手に取った商品の情報とオンラインで接触した情報が同期され、それを接客のツールとして店員さんが使っていく、そういうことは自然に起こると思います。

 車のような購買のスパンが年単位であるものについては特に有効だと思います。そろそろ車検だから新しい車を買おうかといったとき、ネットでいろいろと検索したログをベースに、ディーラーの営業マンがよりニーズにフィットした車種の提案をするというような。これは、ベテランの営業マン、腕利きの営業マンであればもう既に自然にできていることなんです。例えば、ディーラーと地元のファミリーが仲良しになっていて、どういう車種を欲しがっているかニーズを押さえた上で提案できる。

 でも、どの業界でもそうですが、ベテランと新人の差がある。新人はいきなりベテランにはなれない。ファミリーの情報を知らないし、当然、好みの車種なんて分からない。そこに対して、デジタルを介してストックされたデータをベースに、このファミリーにはこういう車種が合うし、こういう価値観を持っているから、こういう提案をした方がいいというような、その営業マンにとって武器になるようなものを届ける。そういう世界は実現されていくと思います。

 実際、お客さまに対し、こういう営業活動をした方がいいと、AIを活用したレコメンドツールを電通デジタルでも開発しています。実際にディーラーで導入されているんですが、すごく評判がいいですね。営業マンから、ありがとうございますと言われたりします(笑)。基本的にデジタルって、誰かから感謝されることが必要だと思うんです。営業の方から感謝されたり、お客さまから感謝されたり。どちらかは必ず必要だと思うし、その両方が成立した世界観を目指していきたいと思っています。

――お互いにとって、無駄なこと、嫌なことが減っていくような方向性の幸せ、それを実現するということでしょうか?

川上 単に嫌なことが減るというより、より便利に、より豊かに。マイナスがゼロになるだけではやはり面白くないので。新しい提案の形、新しい出会いの形というのも、デジタルで作れたりするんですよね。こういう購買履歴のある人にはこういうものが合う、というのがデジタルであれば論証されていく。そうした付加価値型のデジタルの使い方というのも同時にやっていくと非常に良い世界観になるのかなと思います。