カスタマーファーストや顧客至上主義を掲げる企業は多いが、カスタマーエクスペリエンス(以下、CX)を、いかにビジネスや組織づくりへ結び付けるのかが腹落ちしていない企業も多い。レノボ・ジャパン合同会社(以下、レノボ)は、CXを事業の最優先課題として実践している企業の一つだ。カルチャーとして全社員に浸透したCXは、ビジネスの推進力やユーザー評価として顕著に表れている。そんなレノボのCXに対する取り組みと、この時代だからこそ必要な顧客との向き合い方について、同社CMOのリュウ シーチャウ氏に聞いた。

レノボにCXが浸透した理由

 CXとは、顧客が商品の検討から購入後のサポートに至るまでに経験する全ての物事を示し、日本語では「顧客体験」などの言葉で表現されている。顧客は商品やサービス以外にも、接客やアフターサポート、オンライン上の情報など、多様な接点からの体験を通し、さまざまな感情を抱いている。これらの体験の一つ一つを顧客目線で捉え、事業やマーケティング活動へ生かしていくことが近年重要視されているのだ。

 複数のグローバル企業でマーケティングに携わってきたリュウ氏だが、レノボ全社員のCXへ対する姿勢には驚いたという。「CXが全部署に浸透していて、最終的な判断基準がCXになるケースも珍しくない」とリュウ氏は話す。

 同社がCXを重視するようになったのは、2017年からだ。世界のパソコン市場で常にトップシェアを誇っている同社だったが、当時のグローバル経営陣による「厳しい競争環境の中で支持を得ていくには、CX向上が必要だ。だが、残念ながら今のわれわれは理想とはかけ離れている」という、強烈な自己否定のメッセージが始まりだった。そこから、経営陣の発信にもCXの重要性が常に言及され、今でも方針は変わっていない。