不思議な巡り合わせというのもあるものです。

 突然、ドイツ大使館から連絡があり、「ヨーロッパ各地の刑務所を見に来ないか?」と尋ねられました。ビックリしましたね。

死刑を巡る国際対話

米最高裁、刑務所過密の加州に受刑者の釈放命じる

米カリフォルニア州サンクエンティン刑務所〔AFPBB News

 「なんで僕などのところに?」と質問するとEU本部からの推薦だという。私は法律家でもなんでもなく、ただの芸術家、一音楽家に過ぎませんよ、と言うと、「もちろん存じ上げています、あなたに来て頂きたい」という。聴けばなかなか込み入った企画でした。

 単に刑務所を見るだけのツアーではないのです。ご存じのようにEUでは現在「死刑」が廃止されています。

 その結果導入されている刑事罰、更生施設、あるいは被害者感情の救済といった事柄の現実を見ながら、各国から集まった人々との死刑を巡る対話を考えている、それに参加していただきたい、というのです。

 なるほどな、とも思ったのは、こういう対話の類で、日本人できちんと参加できる人はなかなか少ないだろうという察しがつくからです。

 まず、大半の法律家は「死刑廃止」の議論をまともに取り合わない傾向があります。

 何といっても現行法と違うことですから、解釈の優劣、というより実際に訴訟に勝つか負けるかをもって実力が判断される(と思っている)法曹の大半は「死刑廃止論なんてばかげている」「結局のところ立法論に過ぎないですね」などと冷ややかで、こういう話でまともな議論をする人は大変少ないと思います。

 と同時に、もう1つ言っておかねばならないのは「死刑廃止論」の現実です。おいおいお話しするような偶然から、私は様々な「死刑廃止」の考えを持つ人と知り合い、一部の方とはかなり深く議論するようにもなりました。

 そのうえで、あえて言いますが、同じ結論「死刑廃止」を言う人もピンからキリで、大変に慎重に考え、条理を尽くす専門家もあれば、司法のシステムとしての現実とあまり関係なく、感情的に先走る人まで様々で、一概に「死刑廃止」の運動自体が良いとも悪いとも言うことが、私自身できないというのが、率直なところです。

 「じゃぁお前はなんなんだ?」と問われるでしょうから、先に結論を言ってしまうと、私は一音楽家であって、法の問題に専門的な見地から結論を下すだけの資格はありません。