アニメや「かわいい」は、茶の湯や和食よりも日本文化の「正統」

 日本の「聖域」の側からは、オタク文化の引用を「悪ふざけ」「低俗」と、批判も出たが、『芸術起業論』(2006幻冬舎)の中で村上は、「“かわいい” “おたく”は、知的芸術的資源なのだから、それを発展させてゆかなければならない」と檄を飛ばしている。

 産業界では、国際標準のイニシアティブを獲得することで、圧倒的に有利な立ち位置を得、その領域のプレイヤーになれる。アートも、欧米の権威に従うのではなく、日本独自の美の権威をもつべき、という提唱だ。

 日本が自国の文化として権威づけている「茶の湯」や「和食」は、実は中国、東南アジアの文化を強く反映している。それに比べれば、アニメや「かわいい」の日本文化としての正統性や独自性は高い。理にかなった話だ。

ミュージアムショップの自社制作のグッズたち。会場限定の京都のお菓子も売っている

バブルの呪縛を超えて文化立国へ、「もののけ」たちのエネルギー

 今年2月22日、日経平均株価は実に34年ぶりに最高値を更新となり、バブルの呪縛を超えて、日本の変化に期待が高まっている。アートはどうか。

 展示作品を見なおしてみよう。風神、雷神が、自分の力を忘れて呆けている、カラフルな「お花」が、みんな涙目をしている、一見かわいいキャラが空に向かって牙を剥き出している。この展覧会が、日本を鼓舞する極彩色の「もののけ」のエネルギーにうず巻いているように見えないだろうか。

展示風景。脱力した《風神図》(写真上)と《雷神図》(写真下)(2023−2024)©2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

●京都市美術館開館90周年記念展 村上隆 もののけ 京都
2024年2月3日〜2024年9月1日 京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ 
https://takashimurakami-kyoto.exhibit.jp/