村上は1996年にヒロポンファクトリーを設立し、2001年、カイカイキキ社を発足させ「村上」を法人化。彫刻のデジタル3D、グッズ製作スタッフなど、制作チームだけで70〜80名が働く大所帯である。さらに今回のような大作の制作には、特別に人員を増員させる。人件費だけでも相当な額になりそうだが、旧作を展示するより安上がりだという。

 というのも、村上の作品の9割以上は、海外のコレクターが所有していて、これを日本に運ぶと、美術専門の運送、作品の管理をするクーリエと呼ばれる専門職の同伴が必要になる。作品価格が高額なため、保険も高額なのだ。

 これを「意外」と思う人は多いのではないか。そこに、作品に高値がつき、頻繁に個展が開催されている海外と日本の間にある、村上の評価の大きなギャップが感じられる。

日本庭園に立つ金箔におおわれたブロンズ像《お花の親子》(2020)。台座は村上隆とコラボレーションしたルイ・ヴィトンのトランク。©2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
團十郎襲名披露公演を彩った《2020十三代目市川團十郎白猿襲名十八番》(2020)展示風景

嫌われた「聖域」なき、アートの「ひとり構造改革」

「私は、世界では人気なんですが、日本では嫌われてるんです」。と、村上は頻繁に口にする。

「日本には、アートによってお金が動くことを敵視するような社会的通念がある。太平洋戦争の敗戦が原因じゃないか。もしくはバブル経済が崩壊したときに刷り込まれちゃった体感なんじゃないか。でも、それと、アートと僕が敵視されるのは、僕的には理不尽だなと思う」と、自身のYouTubeチャンネルで呟いている。

 日本人はユニクロやソニーを嫌わないし、大谷翔平の巨額の契約金に喝采した。資本主義や金が嫌いなわけではない。村上が嫌われる理由は、それが日本独特の「アートとアーティスト観」と不協和だからだ。