スローバリゼーションとインフレの関係

 今回のWEOにおいては、BOX欄以外でも「分断(fragmentation)」のフレーズは頻出しており、報告書全体で検索すると202ページで計45回も登場する。世界経済を語る上での重要な事実となっているのは間違いない。

 例えば、数あるダウンサイドリスクの一つとして、「地形学的な分断の強まり(Geoeconomic fragmentation intensifying)」が挙げられており、これによって「証券投資および直接投資のフローが削減され、技術革新や新しい科学技術の採用も遅れる。また、資源取引も制限されるため、生産量や資源価格の乱高下に繋がる」と明記されている。

 こうした点も、1年前のWEOで再三懸念されていた経済現象である。実際、ダウンサイドリスクが記述されている部分には、「昨年のWEOや国際金融安定報告書(GFSR)を参照にせよ」とも付記されている。

 こうして貿易や直接投資のような国境を越える必要のある経済活動が効率性を失い、今までもよりも時間やコストをかける必要が出てきてしまったことが、思い通りに制御できないインフレの背景にあるのではないか。

 これらは煎じ詰めれば生産性の低下を意味する。

 経済活動における生産性が損なわれれば、価格は抑制されず、上昇する方向に力がかかる。今年に入ってから米国の中立金利の水準がシフトアップしているという議論が起きているが、これもスローバリゼーションの一環として起きている現象という考え方もある。

 構造的にインフレや高金利が粘着性を持ち始めているのだとすれば、米国の利下げへの道のりは大分遠く、あったとしても大きな利下げ幅は期待しかねるという含意になる。円安に悩む日本にとっては頭の痛い議論である。