世界でも類を見ない厳しい原産地規則はトランプ前政権が導入

 FTAを締結している国(A国)の輸入企業が、A国のFTA相手国(B国)で生産された製品を無税で輸入するためには、その製品がA国あるいはB国から調達した部品や原料を使って生産されたものと証明する、「原産地規則(The Rule of Origin)」と呼ばれるルールを満たす必要がある。

 トランプ前政権が当時の北米自由貿易協定(NAFTA)締約国であったカナダとメキシコに対し、「NAFTAに代わる新しいFTAを締結しない限り、米国をNAFTAから脱退させる」と脅し、半ば力ずくで両国から譲歩を引き出して作ったUSMCAには、世界でも類を見ない水準の厳しい自動車原産地規則が採用されている。

 USMCAの厳しい原産地規則により、アジアや欧州を原産とする自動車部品や原料が北米地域から締め出される一方、米国への輸出を目指すこれらの自動車メーカーや部品サプライヤーが北米域内に相次いで工場を設立するという現象が起こっている。

 海外の自動車メーカーによる北米域内への活発な投資の動きをバイデン政権は「ニアショアリング現象」と呼んで賞賛しているが、ニアショアリング現象の主な原因は、トランプ前政権によるUSMCAの創設や対中追加関税の導入にほかならない。

EV世界トップの中国BYDもメキシコ進出か

 そういう意味では、トランプ氏が描いた、米国をはじめUSMCA域内への投資の活発化によって、当初の目的は達成されたかのように思われる。しかし、ここへきて中国製品がメキシコ経由で米国に輸入されるという新しい懸念材料が、連邦議会やトランプ陣営のあいだで浮上しており、トランプ氏がUSMCAの枠で厳格なルール改定を求めていく可能性は排除できない。

 具体的には、過剰生産で行き場を失った中国産の鉄鋼製品やEVが安価で米国に輸入されるリスクである。加えて、米国市場を狙う中国のEVメーカーは、メキシコに生産工場を設立し、USMCAを使って米国に無税で輸出できる体制作りを目指している。EV生産台数でテスラを抜いて世界トップに躍り出た中国のBYDもメキシコ進出に動いていると各紙が報じている。

BYDは電動スーパーカーも開発。写真の「仰望U9」を中国で発売した(写真:CFoto/アフロ)