さて、実験の説明に戻ります。水濡れストレスがかかったマウスにラベンダーの香りを与える前と後でのコルチコステロイドの変化率を比較したところ、ラベンダー群では、ラベンダーの香りを与えないコントロール群よりも、コルチコステロイド値が減少傾向を示しました(図1―3)。つまり、ラベンダーの香りによってマウスのストレスが緩和されたと考えられます。このようなストレスを防ぐ作用を「抗ストレス作用」と呼びます。

 ここまで、マウスの結果を紹介しましたが、ヒトに対してはどうでしょうか。

スピーチや暗算課題のストレスをやわらげる香り

 2017年に発表された横浜薬科大学の研究者らによる実験*2では、27名の実験参加者を2つのグループに分け、片方のグループはラベンダーの香りを満たした室内で、もう片方は特に香りを操作していない室内で、スピーチや暗算の課題を行ってもらい、その後のストレス状態を調べています。

*2:日塔武彰ほか「ラベンダー精油のストレス軽減効果に関する検討」『日本アロマセラピー学会誌』2017、16巻1号、15―21

 プレッシャーをかけてストレスがかかる状態をわざと作っていますので、課題の終了後、唾液中のコルチゾール濃度を測定したところ、通常の室内にいた人たちは濃度が上昇しました。しかし、ラベンダーの香りを満たした室内にいた人たちは、上昇が見られず、ストレスが抑えられたことが分かりました。

 これは日常生活にも取り入れたい研究結果ですね。

 ところで、ラベンダーの香りの、どのような成分が抗ストレス作用を発揮しているのしょうか。

 というのも、天然の植物の香りは複数の成分から成り立っているからです。ラベンダーの精油の成分を分析した結果を図1―4に示しています。

 これを見ると、ラベンダー精油は47.1%の「リナロール」と40.6%の「酢酸リナリル」という成分で構成されています。このどちらに抗ストレス効果があるのかを調べるために、純粋な成分の香りを先ほどの水に濡れたマウスに与えて同様の実験を行ったところ、酢酸リナリルは血中コルチコステロイド量を減少させましたが、リナロールにはその作用がありませんでした。この研究によって、ラベンダー精油の抗ストレス作用は主に酢酸リナリルによるものであることが明らかになりました。