梅の香りは菅原道真の勉学にどんな影響をもたらしたのか。写真は北野天満宮に咲く梅の花(写真:ogurisu/イメージマート)

ストレスや不安の軽減、睡眠の改善、集中力・記憶力の向上…植物の香りが私たちのコンディションにどんな影響を与えるのか。「香り」が人の体や脳に作用するメカニズムについて、専門家がわかりやすく解説する。(全3回の3回目)

(*)本稿は『「植物の香り」のサイエンス なぜ心と体が整うのか』(塩田 清二、竹ノ谷 文子 著、NHK出版新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

菅原道真が梅の香りを愛した理由

「前頭葉を活性化する」という点で、別の事例を紹介しましょう。

 NHKのBSで「偉人たちの健康診断」という番組があります。歴史上の偉人の生活を最新医学で検証する番組です。あるとき、その番組のスタッフから、梅の香りは脳にどのような影響を与えるのかという取材を受けました。菅原道真を取り上げるにあたって、道真が愛した梅の花の香りがどのような影響を与えたのかと聞かれたのです。

 梅が満開に咲いた梅園の近くに行くと、甘くもさわやかな香りが漂ってきます。

 道真は子どものときから梅をこよなく愛し、自分の屋敷でも育てていたといいます。そんな道真は学問の神様として祀られるほど優秀な頭脳の持ち主として有名です。もしかすると梅の香りが道真の勉学に良い影響をもたらしたのではないか——そんな仮説を立て、番組の企画で実験を行いました。

 実験では4名の女子学生に梅の香りの主成分であるベンズアルデヒドを3分間嗅いでもらい、NIRS(Near-infrared spectroscopy:近赤外分光法)で脳の働きを測定しました。すると前頭葉の働きが活性化していることが分かりました。

 道真が梅の香りを嗅いでいたのは梅が開花しているわずかな時期だけですから、それがどのくらい彼の勉学に影響を与えたのかは分かりません。しかし、歴史の逸話や物語に香りの効果の知識を合わせると、想像力が広がっていきます。

 梅のお花見を楽しむときも、「ああ、前頭葉が活性化されているなあ」と思えば、より有意義な時間を過ごせるかもしれません。

 実際に記憶力と香りの関係を調べた研究もあります。