筆者とヌリア・ロドリゲス=プラナス米国ニューヨーク市立大学教授の研究から、中学校の技術・家庭という科目の男女共修化が、既婚女性の伝統的な性別役割分担意識を中立化し、夫の家事・育児時間を増やす一方で、妻の正社員就業を増やしたことが明らかにされたのである*6。これは、学校教育段階で、性別役割分担を肯定するような教育は望ましくないことを示唆している。男女の賃金差、特に説明できない格差の是正には、学校教育段階でのジェンダー平等な教育や取扱いが重要である。

男女の賃金情報の開示政策への期待

 ここで、最近の政策介入に目を向けよう。2022年、女性活躍推進法の厚生労働省令改正によって、常用労働者数301人以上の事業主は、男女従業員の企業内平均賃金の差を公表することが義務付けられた。各社の賃金格差情報は、男女の平均勤続年数の違い等のその他の情報と同様に、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース(以下、厚労省データベース)」や各社ホームページ等で公開することが求められている。また、2023年3月期決算から、男女の賃金格差は人的資本に関する情報開示項目の一つとして有価証券報告書で開示を求められることとなった。

 男女の賃金情報の開示政策は、企業に、自社における男女の賃金格差を数量的に把握・開示させることで、格差解消のための対応を促し、その実現を目指す政策である。また、客観的情報が開示されることで、労働組合が格差解消のための行動をとりやすくなることも期待される。この政策は、日本よりも先に、15を超えるOECD加盟国で採用されている。

 日本に話を戻すと、今、国内の従業員数301人以上企業の大多数にあたる1万4158社が厚労省データベースに登録しているが、うち1万1431社(81%)が、自社の男女の賃金差を公開している*7。たとえば、株式会社メルカリなど、社内で賃金の男女差解消への積極的な取組みを行っている企業にも、厚労省データベースへの登録ではなく、自社HPでの情報公開のみの場合があるが、一覧性の高い形での情報公開が進むことが望ましいと考える。

 ところで、諸外国ではこの政策の因果効果を検証した研究成果が蓄積されつつあり、オーストリアでは効果がなかったことが報告されているが*8、デンマークや英国などの複数の国でこの政策に説明できない格差を縮小させる効果があったとされている*9

 だからといって、日本でも効果があるだろうと結論づけるには時期尚早である。しかし、日本における賃金の男女差は、経済全体で大きいだけでなく、同じ事業所で働く男女の間で説明できない格差が大きいという特徴がある。そのため、企業内の男女差の是正をターゲットとするこの政策は、日本では有効に作用することが期待される。ただし、賃金決定システムは各国の労働市場で異なるので、将来的には、日本のデータを使った本政策の効果検証が必要なことは言うまでもない。

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