21位のボリス・コワルチュク氏の父は、「プーチンの金庫番」とされるユーリー・コワルチュク・ロシア銀行会長。「メディア王」といわれ、大統領の愛人、カバエワ氏を傘下のナショナル・メディア・グループの会長に起用した。保守強硬派で、新型コロナウイルス禍でも大統領と頻繁に会い、ウクライナ侵攻を強く主張したとされる。「後継者」は子息であるエネルギー統一機構会長について、「まだ地味だが、今後浮上する可能性がある」としている。

 政権エリート二世では、メドベージェフ前大統領の一人息子、イリヤ・メドベージェフ氏が米国の滞在ビザを取り消されたため、米国留学から帰国し、昨年、統一ロシアに入党した。独立系メディア「メドゥーザ」によれば、今後、父が党首を務める与党・統一ロシアから下院選に出馬する可能性があるという。「核の恫喝」を繰り返す極右の父と違って、息子はITを得意とし、好戦的ではないとされる。

「エリート子弟を動員すれば一日で終戦」との皮肉も

「クレムリンの子供たち」と呼ばれる政権エリート二世の動向については、独立系メディア「重要な歴史」(2022年11月4日)が調査報道を行い、「彼らは戦争を回避し、豪華なアパートに住み、高級車を乗り回し、気ままな暮らしをしている」と伝えた。

 それによれば、セルゲイ・ショイグ国防相の二女と結婚したアレクセイ・ストリヤロフ氏は、妻とともにモスクワに3つの高級住宅を持ち、フィットネス・ブログの発信を仕事にしている。

 アレクセイ・グロモフ大統領府第一副長官の長男のアレクセイ氏(父と同名)は国営メディア、RTの幹部で、テスラ、ポルシェ、アウディを乗り回し、モスクワ中心部に複数の住居を保有するという。

 アンドレイ・ボロビヨフ・モスクワ州知事の女婿、マルク・ティピキン氏は投資会社で働き、イタリアのリゾート地に別荘を保有し、モスクワでベンツの最高級ブランド、マイバッハとBMWを乗り回している。

 エリートの子弟で、動員された者は今のところいない。「重要な歴史」は、チェチェン紛争に際して故アレクサンドル・レベジ将軍が語ったとされる「エリートの子弟で一個小隊を形成すれば、戦争は一日で終わる」との言葉を引用した。

 昨年8月に航空機事故で死亡した民間軍事会社「ワグネル」の指導者、エフゲニー・プリゴジン氏は生前SNSで、「貧しい家庭の息子たちが戦場で次々に戦死する中、エリートの子弟らは海外の保養地で遊び、ユーチューブを撮影して人生を謳歌している」と非難した。政権は、「階級闘争」の檄を飛ばしたプリゴジン氏を危険とみなして抹殺した可能性もある。

名越健郎
(なごしけんろう) 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。

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