モスクワの銀行でATMに並ぶ人々。ロシアの銀行は戦時経済の中で巨額の利益を計上している(写真:TASS/アフロ)
  • ロシア中銀は発表した資料によると、2023年度におけるロシアの市中銀行の当期利益は歴史的な高水準となった。
  • その背景にあるのは、企業向け貸出と住宅ローンの増加。金融・経済制裁を受けて資金繰りが悪化している企業の救済と、政府発の住宅バブルである。
  • ただ、これは政府からの一種の所得移転に等しく、健全な経済の成長を反映したものではない。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ロシア中銀が1月30日に発表した資料によると、ロシアの市中銀行の2023年度における当期利益は3.3兆ルーブル(約370億米ドル)と、前年(0.2兆ルーブル)から大幅に反発し、歴史的な高水準となった(図表1)。

 一見すると、欧米からの経済・金融制裁が科されているにもかかわらず、ロシアの市中銀行の業況は好調に見える。

 とはいえ、発表資料の中でロシア中銀は、2022年から2023年の市中銀行の利益の平均水準が1.7兆ルーブルであったことを強調するなど、控えめな見方を示している。

 少なくとも、ロシアの市中銀行の利益が増えたからと言って、中銀は経済が堅調だというアピールをしてはいない。事実、市中銀行の業績はロシアの好況を反映するものではない。

【図表1 ロシアの銀行部門の利益状況】

(出所)ロシア中銀

 確かに名目の利益は歴史的な高水準となったが、総資産利益率(ROA)で見ると、中銀の控えめな評価が妥当なことが分かる。つまり2023年の市中銀行のROAは2.0%と2022年(0.1%)からは急激に改善したが、侵攻前の2019年や2021年の水準と同じである。反発の勢いは強かったが、好調と言えないことは明白だ。

 そうはいっても、ロシアの市中銀行の利益が回復したことには変わりがない。その理由は、貸出金が増加した結果、貸出金利息が増えたことにあるようだ。

 実際に市中銀行による貸出金残高の推移を確認すると、企業向け貸出は、直近2023年7-9月期時点で対名目GDP(国内総生産)比43.3%と、歴史的な高水準にある(次ページ図表2)。