(英エコノミスト誌 2023年11月25日号)

アルゼンチンの大統領選で勝利したハビエル・ミレイ氏(11月19日撮影、写真:ロイター/アフロ)

実際にどこまで成し遂げられるかは不透明だ。

 彼はタントラ・セックスやコスプレをかじり、ローリング・ストーンズのトリビュート・バンドで演奏した。

 中央銀行の建物をかたどったピニャータ(お菓子などを入れたくす玉)をテレビカメラの前で叩き壊し、財政支出をテーマにしたオペラをスーパーヒーローの格好で演じた。

「無政府資本主義者」を自称するハビエル・ミレイ氏は、今度はアルゼンチンの国家運営に挑戦する。

 11月19日に行われた大統領選挙決選投票では56%の票を獲得し、過去20年間のうち16年間で政権を担った正義党(ペロン党)から立候補した現経済相のセルヒオ・マサ氏(得票率44%)を破った。

 ミレイ氏は2021年に下院議員になったばかりで、議員グループ「自由前進」を立ち上げたのもつい2年前のことだった。

 それにもかかわらず、大統領選挙では24州のうち21州で勝利を収めた。

庶民から富を盗む政治家にノー

 特権を持った政治家の「カースト」が庶民の富を盗んでいるというミレイ氏の指摘は多くの有権者の琴線に触れた。

 昨年12月にはクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領が汚職で国家に10億ドルの損害を与えたとして有罪判決を受けた(本人は容疑を否認している)。

 今年9月には、ある貧しい地区の首長が辞任に追い込まれた。

 豪華なヨットに乗り込んでいるところを女性コンパニオンが写真に撮り、交流サイト(SNS)に投稿したためだ。

 ペロン党はお金をばらまいて勝利への道を開こうとした。

 投票日までの数週間で、マサ経済相は年金受給者や自営業者に国内総生産(GDP)比1%相当の支援を実施し、議会は勤労者の99%を対象に所得税を廃止した。

 だが、これほどのバラマキでさえ選挙戦の流れをペロン党側に引き寄せることはできなかった。

 選挙前の世論調査では、ミレイ氏は30歳未満の男性、非公式労働者、そして自営業者に特にアピールしていた。

 登録自営業者の数はここ20年間で膨れ上がり、180万人に達している。