2023年のノーベル物理学賞受賞者。左からピエール・アゴスティーニ、フェレンツ・クラウス、アンヌ・ルイエの各氏(写真:AP/アフロ)

 長年の愛読者の皆さんはありがたいもので、「毎年ノーベル賞の解説を楽しみにしています。今年の結果についてぜひコメントを伺いたい」という趣旨のリクエストをいくつかいただきました。

 思い返せば2008年、日経ビジネスオンライン連載「常識の源流探訪」で、南部陽一郎先生+小林誠・益川敏英両教授が得られたノーベル物理学賞について解説したのが始まりでした。

 私は素粒子の専門家ではありませんが、物理をかじったことのある人なら誰でも記せる程度の平易な解説を記したところ、大変好評でした。

 そこで、ただちに集中連載の体制を組み、授賞式に間に合うように「日本にノーベル賞が来る理由」を出したのがきっかけで、しばらくの間、この季節になると関連の取材が来ていました。

 しかし、私は評論家ではなく作り手側の当事者ですので、教育的に効果があるような場合以外はお断りするようになり、いつの間にか縁遠くなっていました。

 とはいえ「楽しみにしています」という読者の皆さんからのリクエストは何より有難く、かけがえのないものです。

 ということとで今回のノーベル賞、まずは書きやすい「物理学賞」を獲得した「アト秒分光」について、平易にお話してみたいと思います。

「あっ」という間の「アト秒」分光

 この頃はデジカメ、というよりスマホが、完全自動システムで写真を撮ってしまうので、若い読者には「シャッター開放時間」とか「手ブレ」などといっても、分かりにくいかもしれません。

 一般にカメラとは、極く短い時間だけ「シャッター」を開けて感光物質のスクリーン上に外界の光学像を映し出し、これを情報化する装置です。

 被写体がじっとしていれば鮮明な撮影が可能ですが、仮にシャッタースピードよりも速く動く物体を写せば画面はブレて不鮮明になってしまう。

 あるいは、ゆっくりと動いている対象でも、シャッター開放時間を長くとれば、その軌跡が撮影されます。

 例えば、夜空に輝く星を一瞬のシャッターチャンスで写せば「星座」が撮影できるし、何時間もシャッターを開いたままにしてけおば、このリンクにあるように、天球の回転を軌跡として捉えることができます。

 ゆっくり動いているものは、長時間の露出で「運動の軌跡」を観察することができる。

 しかし、素早く動いているものを長い露出時間で撮影しようとすると、ボケてしまったりブレたりして、正体を捉えることが難しい。