下院議長の解任動議を提出したマット・ゲイツ下院議員(10月3日、写真:ロイター/アフロ)

ここまで混乱を招く米民主主義の盲点

「民主主義とは革命や内乱を防ぐ手段だ」と言ったのは、オーストリア学派のドイツ系米国経済学者、ハンス・ヘルマン・ホッペ教授(ネバダ大学ラスベガス校名誉教授)だった。

 ところが、昨今の米議会を見ていると、議会制民主主義とは、党内造反を生み、少数派分子が行政機関をマヒさせ、対外公約まで破棄するような事態を招く無用の長物に成り下がっている。

 もっとも、一度は米国では大統領だったドナルド・トランプ氏が「民主主義の敵」だとして司直の裁きを受けようとしているのだから、議会が一部の跳ね上がりによってカオスに陥っていてもそれほど驚くべきではないかもしれない。

 民主主義とは無縁な一党独裁国家の中国をはじめ世界の独裁者たちは、米国のこのぶざまさを嘲笑っているに違いない。

 米議会のぶざまさに話を戻せば、221人いる共和党議員のうちたった1人が党内トップの下院議長の解任動議を出し、それに7人の造反議員が賛同しただけで、党内基盤の脆弱な下院議長をその座から追い落とすという前代未聞な政治劇を実現させてしまったのである。

(113年前に一度だけ下院議長を解任する企てはあったが、解任には至らなかった)

 それが「二分化するアメリカ合衆国」ではできることを世界中に知らしめた。

 下院議長解任の序曲は、「ハサミを振りかざして駆けずり回る一議員の行動」(マイク・ガルシア下院議員=共和党、カリフォルニア州選出)で始まった。

 本予算が共和党の反対で可決・成立困難と見たバイデン民主党は、「つなぎ予算」(Clear CR=Continuing Resolution )で時間を稼ぐことに成功したが、それをのんだ下院議長が党内から突き上げをくらって解任されたのだ。

 国際公約であるウクライナ軍事追加予算(60億ドル)を削除してまでして成立させた「つなぎ予算」だった。

 つまり、ジョー・バイデン大統領にとっては、もしこれが成立しなければ、行政機関は10月1日からシャットダウンする瀬戸際だった。

 その結果は、軍事・外交上はウクライナに対する追加軍事支援を凍結させ、ウクライナだけでなく、北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする米国の同盟国の対米信頼度を著しく弱める。

 だが、共和党内の「反ウクライナ派」過激派分子は、「つなぎ予算」を認めた下院議長を「裏切り者」と決めつけ、解任動議を出せば、民主党が賛成してクーデターは成功すると踏み、行動に出たわけだ。