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「教育の無償化」に関する議論が政界を中心に活発化している。だが国際教育政策の専門家、畠山勝太氏は、昨今の教育無償化議論には致命的な落とし穴があると指摘する。それは、教育の「コスト」ばかりに目が向けられ、「コスパ」がおろそかにされていることだ。

 教育無償化の是非を検討するうえで、本来精査すべき教育のコストとパフォーマンスとは一体何か。コスパを向上させるものとして、世界ではどのような教育政策が議論されているのか。日本の教育政策の検討に不可欠な論点を、畠山氏が4回にわたって解説する(最終回)。(JBpress)

◎連載「教育の『コスパ』とは何か」記事一覧はこちら

(畠山 勝太:NPO法人サルタック理事、内閣府国際平和協力研究員)

教育のコスパはいかほどか?

 最終回となる今回は、「コスパ」が良いのではないかと議論されている教育政策を紹介していく。

 前回、教育のコスパには、個人にとってのコスパ「私的教育収益率」と政府にとってのコスパ「公的教育収益率」が存在することを説明し、それぞれの計算方法を紹介した。教育収益率とは、大学教育を受けるために支払ったコストが毎年何パーセントぐらいの収益を生み出し続けてくれるのか、を表す数字である。

 では、日本の大学教育の場合、私的収益率は一体何パーセントぐらいなのだろうか? 前回予想しておいてほしいと記述したが、予想していなかった人は少しここで画面のスクロールを止めて予想してほしい。

 下記に記す答えがパッと目に入ってしまわないように、少し駄文を続ける。近年、「大学など行っても意味がない」という議論を「著名人」がしているのをよく目にする。この著名人たちの議論が正しいのであれば、大学教育の私的収益率は小数点以下にいくつかゼロが続く銀行の利子率よりも低いといった感じであろう。

 その一方で、都心部の少なからぬ保護者たちが子弟を少しでも良い大学へ行かせるために、“クレイジー”としか形容しようがないほどの時間・お金・エネルギーを費やしているのを見ると、大学教育の私的収益率は、10%を超える利率で高利回りを謳う投資商品よりも高く見える。