京都ハンナリーズGMの渡邉拓馬氏とHCのロイ・ラナ氏(右)。

 日本代表の躍進が注目を集めたバスケットボール・ワールドカップ。格上を撃破し、2024年のパリ五輪出場権を手繰り寄せた。

 バスケットボールは近年、日本においても高い注目を集めている。

 世界で最も人気の高いスポーツの一つであるバスケットボールが日本により深く根付くチャンス。特に、自国リーグであるBリーグにかかる期待は大きい。

 京都で奮闘するBリーグ「京都ハンナリーズ」は異色のコーチを据え、独自のチーム運営を行う。リーグ全体のモデルにもなりうるその方法とは? 

 GM・渡邉拓馬氏とヘッドコーチを務めるロイ・ラナ氏が語りあう全3回の第2回。(取材・文/田邊雅之、写真:花井智子)。

【渡邉拓馬氏✕ロイ・ラナ氏 特別対談】
◎Part.1 元NBAのAコーチが見た「日本バスケットボール」の可能性◎Part.2 バスケW杯エジプト代表HC兼BリーグHCが語る「日本型コミュニケーションの壁」
◎Part.3 「カギになるのは効率性」元NBAのAコーチが見た、日本バスケットボール界の克服すべき「壁」。

オープンコミュニケーションの重要性

――拓馬さん(※渡邉拓馬 現京都ハンナリーズGM。アルバルク東京などでプレー、日本代表としても活躍。現影引退後アルバルクでアシスタントGMなどを経て現職)、実際にチームに加わった後、まずどこが問題だと思われましたか?

渡邉拓馬(以下・渡邉) チームの文化ですね。それまでの運営体制は、あまり高い評価は得られていませんでしたし、実際に自分がGMとして活動を始めてみると、チーム全体の雰囲気やプロ意識の在り方に関しては、自分がかつて所属していたクラブとかなりギャップがあると感じました。

 むろん、これまでもコーチングスタッフや選手たちは努力していたと思うんですが、熱量や意気込みがあまり感じられなかった。

 先程述べたように選手やスタッフを大幅に入れ変えたのは、やはりチームの文化やメンタリティの部分でも、かなりのテコ入れが必要だと思ったからなんです。

――ロイさん(※ロイ・ラナ 現京都ハンナリーズHC。東京2020オリンピックドイツ代表チームのトップアシスタントを務め、ベスト8進出に貢献。また、NBAでは、サクラメント・キングスでACなどを歴任。現在はエジプト代表チームのHC兼任)はいかがですか?

ロイ・ラナ 私がまず重視したのはマインドセットを変えることでした。

 結果の出ない組織や試合で勝てないスポーツチームでは、選手たちが自信を失い、方向性を見失っているケースが多い。こういう状況を変えていくためには、まず拠り所とすべき方針や信念をチームに植え付けなければならない。

 そこから徐々に自信や信頼関係が育まれ、自分たちはこのやり方で絶対に勝利を目指していくという強い気持ちが生まれてくるんです。

渡邉 意識というのは非常に重要な部分で。ハンナリーズを強化していく上では、ピック&ロール(※バスケットボールにおける戦術のひとつ)といったテクニカルな問題を解決するよりも、メンタルの部分を改善することが必要でした。

 メンタルの強さがなければ、シーズンを戦い抜くのは難しい。だから僕は高い目的意識を持った選手やスタッフを集めつつ、マインドセットを変えられる指導者として、ロイさんに白羽の矢を立てたんです。

 ロイさんにHCに就任していただいた理由としては、一人の人間として選手と向きあい、コミュニケーションを取れる方だという要素もありました。こういうコミュニケーションの文化を作っていくことは、人間的な成長を促すだけでなく、強いチームを作っていく上でも鍵を握ると思いますから。

――ただし日本人は、率直に意見を言い合うオープンなコミュニケーションが得意ではありません。部活動でも一般企業でも、意見を言うこと自体がタブー視されているような傾向がいまだに強いのが実情です。

渡邉 その影響はかなり大きいですね。たとえば日々の活動でも、やはり本当にとことん話し合っていくことでチームは成長できる。

 でも日本人はそういうやり方が得意ではない。

 バスケットに限らず、社会や教育の現場もすべてそうですが、あまりコミュニケーションを取らずに、自分たちの思いだけで突っ走ってしまうから意識のズレが生じたり、問題が起きてしまったりする。スポーツ界の人間関係は特にそうだと思います。

 あまりコミュニケーションが得意ではない、日本特有の昔ながらの指導スタイルのコーチの場合は、周りに見えない壁を作りがちになってしまう。これは日本独特な文化を反映しているのかもしれませんが、一歩踏み込んだコミュニケーションが取れないケースが多いんです。

ロイ・ラナ チームを作る立場から言えば、選手たちに対しては積極的に発言したり、異なる意見を述べたりすることに不安を感じずに済む環境を与えなければならない。

 私たちが理解しなければならないのは、オープンなコミュニケーションは、必ずしも規律の欠如を意味しない、それどころか個性を発揮することと規律を徹底させることは、十分に両立できるということだと思います。

 非常にオープンでフランクにコミュニケーションを取り合う環境があれば、納得してもらった上で決定がなされます。

 そして、そこで得られたコンセンサスに沿って活動していくために、自然に規律が必要になってくる。時と場合によっては、コミュニケーションを取った上で、ヘッドコーチが自分で決断を下さなければならないこともある。それでも周りの意見を取り入れていくことは十分に可能なんです。