クロマグロは「量産化」できるのか?

日本が成し遂げた「海のダイヤ」完全養殖(後篇)

2011.04.04(Mon) 漆原 次郎
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 人工孵化したクロマグロの仔魚を育てて親魚にし、次世代以降も人の手でサイクルを積み重ねていく──。近畿大学が2002年に成功したクロマグロの完全養殖成功は、漁獲高減少や国際取引禁止といった近年の動向への根本的な解決策につながるものかもしれない(前篇はこちら)。

 だが、完全養殖マグロを普及させるのには課題もある。普及するための事業の仕組みを確立することをはじめ、親魚になるまで安定的に育てることや、なるべくコストをかけずに餌をやることなど、挑戦すべきことは多いのだ。

 多くの困難を乗りこえてまでして、マグロ食を守ろうとする意義とは何か。

経験したことのない味だった「近大マグロ」

 クロマグロ完全養殖の目的は消費者へのクロマグロの安定供給にある。そこで気になるのが味だ。

 近畿大学が養殖したクロマグロは、「アーマリン近大」という近畿大学発ベンチャーが、関東、中部、西日本などの百貨店内の取扱店や回転寿司店などに「近大マグロ」というブランドで卸している。数量は限定ながら、近大マグロを食べることができる。

 そこで、都内百貨店の地下生鮮食料品コーナーで近大マグロを買い、試食することにした。価格は123グラムで2066円。

 購入した刺身用マグロは赤身だ。表面に光沢があって、脂が多く含まれているのがうかがえる。

「近大まぐろ」。アーマリン近大は、他にも同大学水産研究所でつくったマダイ、シマアジ、イシダイなど各種魚類を販売する

 包丁で切って、わさびと醤油で食べてみる。確かに食べているのは赤身のはずだが、すぐその認識が変わる。舌の上で脂のうま味がじわりと広がっていくのが分かる。目隠しをして食べれば、中トロと間違えるほど。この色にして、この味。経験したことのない感覚だった。

 「養殖魚でも、ブリ、ヒラメ、カンパチなどは脂が乗りすぎるとかえって旨くなくなります。マグロにも限度はありますが、トロは好まれているので、脂を増やすという点では有利です」

 こう話すのは、近畿大学水産研究所所長で、クロマグロ完全養殖のプロジェクトに最初から携わってきた村田修氏だ。トロ好みのいまの日本人からすれば、完全養殖マグロの味は天然クロマグロに勝るとも劣らぬものと言えそうだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


科学技術の現場

日本の国力を根幹から支える科学技術。地球温暖化問題、食糧問題、人口問題など人類全体の問題解決に際しても、その重要性はますます高まっている。企業、大学、研究機関などで研究・開発が進められている先端技術や研究内容を紹介する。