クロマグロは「量産化」できるのか?

日本が成し遂げた「海のダイヤ」完全養殖(後篇)

2011.04.04(Mon) 漆原 次郎
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企業との提携は量産化の布石

 味は十分。では、完全養殖のサイクルにあるクロマグロをどのように増やして普及させるのか。

 2010年9月、トヨタグループの商社である豊田通商が動いた。完全養殖クロマグロの「中間育成」を手がけることを近畿大学と提携したのだ。

 中間育成とは、成長の中間段階にある魚を育てることを指す。クロマグロは、卵から孵(かえ)ってからの成長過程で、仔魚、稚魚、幼魚、成魚、親魚という各段階に分けられる。このうち幼魚は体長30センチ、体重500~700グラムほどに成長した段階のもので、皮膚に縞模様ができることから「ヨコワ」と呼ばれる。

 豊田通商は、長崎県五島市の福江島に「ツナドリーム五島」という企業を設けた。この会社が、近畿大学が育てたクロマグロの稚魚の一部を預かり、ヨコワに成長するまで育てる。

 豊田通商との提携は、近畿大学にとっても好都合なものだった。完全養殖技術の向上により、ヨコワまで育つクロマグロの数が増え、自分たちが管理できる範囲を超えつつあるからだ。近畿大学水産研究所は2007年、国内養殖業者に1500尾を出荷。2009年には、4万尾を生産するまでになっている。

 「ヨコワまで育てるには場所と労力が必要。近畿大学だけでは担えなくなります。中間育成をする企業と連携して、日本の養殖マグロの“源”をつくろうというわけです。今後も、このような連携が増えていくことでしょう」

沖出しまでの生残率は10%未満

 完全養殖クロマグロの普及に向けた流通や育成の仕組みは確立されつつある。一方で、技術的な研究課題はまだ多く残されている。

 まず、稚魚の生残率をいっそう高めていかなければならない。近畿大学水産研究所の完全養殖クロマグロの稚魚のうち、水槽から沖の生簀へと移すまで成長した「沖出しサイズ」の生残率は、2009年の段階で6%。前年と比べて4倍にはなったが、それでも10尾中、9尾は生簀に移される前に命を絶ってしまうわけだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


科学技術の現場

日本の国力を根幹から支える科学技術。地球温暖化問題、食糧問題、人口問題など人類全体の問題解決に際しても、その重要性はますます高まっている。企業、大学、研究機関などで研究・開発が進められている先端技術や研究内容を紹介する。