世の中の暴排が進み、シノギが先細りする昨今、ハイリスクであろうと、恰好悪かろうと、ITや金融、合法企業経営などに明るいモダ―ンな組織でない限り、背に腹は代えられないから、薬屋に甘んじないと食えない現実があるのではなかろうか。

ヤクザがシャブをやっちゃう理由

 ヤクザがシャブを扱うのは「どうせ、自分の快楽の為でしょ」と思われがちである。そうした見方を筆者は否定しない。しかし、彼らのサブカルチャーを知るにつけ「そりゃ、シャブに走るのも無理ないな」と思われるような、切ないケースも散見されるのである。以下、引退したヤクザの元幹部M氏に聞いた「シャブをやっちゃう理由」につき、紹介する。

 確かに、ヤクザでも好奇心からシャブに手を出し「こりゃ超気持ちいいわ」と、ズブズブの関係になる人がいる。彼らの多くは何らかの非行集団に関係していた過去があるから、日常生活において、比較的近いところにシャブがある。だから、つい、好奇心からツマミ食いしたくなるのも首肯できる。しかし、それ以外にも、ヤクザというサブカルチャーの中で生きていると、止むを得ない事情もあるのである。

 M氏によると、「ヤクザはね、シャブやんないといけない場面があり、二つの理由から(シャブの使用は)止むを得ないこともあるんだよ」と言う。

「理由の一つは、部屋住みの時(住み込みで雑用をさせられる時期)ね、若い衆は寝る時間がないんだよ。だって、親分が外出するのは夜でしょ(シマ内の店のハシゴなどなど)。車の中で待ってなきゃなんない。この待ってる間は眠たいんだよね。だから眠気覚ましにポンとやっちゃう」

「もう一つの理由。それは、兄貴分から勧められるんだよ。でもね、嫌とは言えないでしょう。だって、ヤクザは親(分)のために命を捨てる覚悟がいるんだからね。そこで、もし断ったらりしたら、『何やお前、われの命、組に預けたんちゃうんかい。死ぬんが怖いんか』って言われるよ。だから、ヤクザになると嫌でもシャブやんなきゃなんないんだよね」

 こうなると一種の踏み絵である。

 このM氏の話は、とても説得力があった。平成18年、彼と出会って以降、筆者は多くのヤクザの方と会うこととなるが、同様の体験を経て、シャブの常習者になった方は複数存在した。しかし、一方で、次のような理由でシャブに手を出したレアな方も居るのである。

「(シャブに手を出したんは)現役の頃や・・・。ちょっとこれには訳があるんや。実はな、わしの現役の頃に友人が居った。新聞社の人でなあ、いい人やった。この人が子どもの育て方をわしに教えてくれたんや。わし自身、子ども時代不遇やったから、その人の話聞いてな、わし、次第に(ヤクザの)組を抜けたいと考えるようになったんや。方法をいろいろ考えたんやが、一番いい方法がシャブやった。わしら博徒や、シャブでボロボロになったら、博徒は務まらん。それで(親分に)破門してもらったんや」

 この話をしてくれたO氏は、博徒系ヤクザで、常盆の胴師(常に開催されている盆=すなわち常設賭場の札を繰る役を担当し、本引き博打の親側席の真ん中に座る。世話役である合力が両脇に座る)であり、腕が良かったため、引っ張りだこであったとのこと。