しかし、米国の撤退は、航空戦力を展開しバシャール・アサド大統領を支援しているロシアを、シリアでの紛争における唯一の圧倒的勢力にすることになるだろう。

 「米国が撤退を決定したことは正しい。全般的に見て、ISが受けている損害のレベルについては、米国の大統領に同意する」と、ウラジミール・プーチンロシア大統領は、恒例の年末記者会議の席上で述べている。

 ソ連の崩壊を歴史的な地政学的悲劇と述べたプーチン大統領は、ソ連時代以来のモスクワの長年にわたる同盟国であるシリアを、中東における影響力を維持するうえでカギとなる貴重な資産とみている。

 イランのシーア派の宗教指導者の政権もまた、異端のアラウィ派の世俗的指導者のアサド政権を強力に支援してきた。

 トルコはアサド政権に敵対しているが、トランプ大統領のおかげで、米軍とともにISと戦ってきたクルドの戦闘員に対する戦いにも勢いづいている。

 トルコは、米国が支援してきたシリア民主軍の主力をなすクルドを、トルコ国内での反政府闘争を展開してきた武装勢力と、数十年にわたり一体とみなしてきた。

 しかしトルコは、もしもクルドに対する紛争を激化させれば、米軍に損害を与える恐れがあることから、クルドに対する戦いを控えてきた。

 シリア民主軍の報道官であるムスタファ・バリは、ISに対する戦闘を続けるが、もしもトルコの攻撃があれば何が起こるか分からないと表明している。

欧州の憂慮

 バリ報道官は、クルド軍はISの過激派を留置所に収容し続けようとしているが、米軍がいったん退却すれば、トルコは混乱を招くために刑務所を攻撃するかもしれないと警告している。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領の大統領府は、この「囚人問題」を「フランスにとり極めて深刻な問題である」とし、「性急な撤退が否定的な結果を招かないよう」、協議することを求めると表明している。

 ISの活動は世界中に多くの血なまぐさい攻撃を引き起こしてきた。その中には、2015年のパリにおける周到に調整された攻撃も含まれ、専門家は数千人のIS同調者がまだ残っていると評価している。

 他方ドイツは、100万人以上の難民を受け入れている。その多くはシリアから来た難民だ。脅威は去ったとするトランプ大統領の評価に疑問を呈している。