立地が悪いのに強い鹿島アントラーズ

――とはいえ現実的に「健全な商売にする」のは大変ですよね。

「はい。スタジアムの立地条件などの問題で、順位がよくて選手もめちゃくちゃ頑張っているのに集客で苦戦する、という例を見ると本当に切ないですね」

――たとえばサンフレッチェ広島や町田ゼルビアは、スタジアムの立地がよく指摘されますが。

「アクセスが良くない、公共交通機関で行けないというのは、集客にも飲食等の収益にも大きく影響します。スタジアムの立地がよければ集客が簡単になるのは間違いないですけど、実際スタジアムの移転や新設はとても壁が高い。そういう意味で、私が理想的だなと思うのは鹿島アントラーズさん。同じように鹿島スタジアムってアクセスは悪いじゃないですか」

――遠いです!!

「加えて、地元にそんなに大きな企業がたくさんあるわけではないので、スポンサーのサポートを集めるのもすごく大変なはずなんです。なのに、創設からずっと強豪クラブであり続けている。Jリーグの中でも一番うまくいっているクラブだと思うんですね」

――確かにそうですね。

「先日、鹿島アントラーズの主催で『スポーツデジタルフォーラム』というMLSのLAギャラクシーとNBAのシカゴブルズのデジタルマーケティング担当の方がゲストスピーカーでいらっしゃったフォーラムがあったんですね。アントラーズ、デジタルにものすごい投資をしているんですよ。例えば、高密度Wi-Fiを数億円かけてスタジアムに取り入れているんですけど、それも鈴木秀樹さんという創設期からいらっしゃる事業部長さんが『これからはデジタルの時代だから』と言って始められた。ふつう、それって儲かるのか?って言われてなかなか進まないことが多いんですけど、『トレンドとしてデジタルの時代になることは間違いないから、この波に乗らなきゃいけないんだ』と押し切ったらしいんです。失礼な言い方ですけど、私よりずいぶん年齢が上なのにものすごくデジタルリテラシーが高い。Wi-Fiに数億ってハンパな投資じゃないですからね」

――それはすごいです。

「他にもアントラーズはカシマスタジアム内に中継室を作って、自前でコンテンツを作っています。ダゾーンの中継も、他のクラブはダゾーンが製作しているんですけど、アントラーズは自前で製作をしてそれをJリーグに提供している。じゃあなぜ、そんなに大金をかけ、大変だろうことをやっているのか、という話も聞いたんです。そこには『KA41』というビジョンがあった。KAは鹿島アントラーズのイニシャルであり、経営の響きから取ったもの。41はクラブ創設50周年を迎える2041年を意味するそうです」

――はじめて聞きました。

「創設20周年になる2011年10月1日のタイミングで発表されたものなんですが、『2041年に、どのような姿で50周年を迎えるべきか』が宣言されています。これは、アントラーズの未来がどうなっているのかということを数年かけて徹底的に調査、精査したとき、『このままではクラブの存続すら危うい』という結果が出たことから、じゃあどうやって生き残っていくべきかという問題意識から作られたものだそうです(編集部注:「マーケットという点で他クラブに比べてアドバンテージがあるとは言えない茨城県の鹿行地域において、現状に対処しているだけの経営では、存続していくことすら厳しいだろうという結論でした。」鹿島アントラーズHPより抜粋)。そうして辿り着いたのがデジタルの強化。だから、高密度Wi-Fiも入れるし、自前で中継やコンテンツを作っている」

――そこまで徹底している。

「アントラーズって東京からいらっしゃるサポーターも多いじゃないですか。でも、立地的に毎試合行くのは難しい。どうしているかと言えば、スタジアムには行けないけど、試合中にSNSを見たりしている人たちに、例えば月額制の会員コンテンツを売る。距離があってもデジタルでできる施策、お金を落としてもらえる仕組みをいち早く考え取り組んでいらっしゃる。そうしたアントラーズの姿勢や方法はものすごく刺さりました。うちも立地がいいとは言えません。最寄り駅からバスで30分以上かかるから公共交通機関で行くのは大変です。でも、デジタルをうまく使えば、東京やその他全国に住んでいる栃木を応援したい人が応援できるようになると思うんですね」