そこで台湾政府は、軍事的に対抗する策ではなく、太平島の海洋気象観測施設を充実させるという非軍事的抵抗策を実施することにした。
いくら太平島の海軍陸戦隊員を増強し、対艦ミサイルや防空ミサイルそれに対地攻撃ミサイルなどを設置して、中国人工島基地群に軍事的に対抗しても、中国軍がその気になれば一撃で太平島は火の海となり守備隊や沿岸警備隊は全滅してしまう。しかし、太平島の気象観測所や海洋研究施設で民間人である研究者が多数常駐し研究に従事していれば、中国軍といえども、太平島にミサイルや誘導爆弾を撃ち込むことは躊躇せざるを得なくなるというわけだ。
尖閣諸島:日本は実効支配のアピールをせず
こうして台湾政府は、東沙島と太平島の研究施設を充実強化して科学者・研究者を送り込りこむことにより、中国軍による軍事攻撃を抑止しようとしている。軍事的に圧倒的に劣勢な中国との領域紛争において、中国の軍門にひれ伏さずに実効支配態勢を維持し続けるための非軍事的対抗策である。軍事的には勝負にならなくとも、なんとか知恵を絞って自国の領域を守り抜こうという姿勢の表れと言えるだろう。
一方、このような台湾政府の自主防衛努力と対照的なのが、尖閣諸島を巡る中国との領域紛争における日本政府の無策である。
日本が自衛隊を繰り出して軍事的に尖閣諸島周辺から中国海軍や中国海警の勢力を駆逐してしまうことは、確かに愚策であるだけでなく現状では不可能である。
だが日本政府は、中国を刺激することで中国国内で日系企業に対する打ち壊しが起きたり、中国との経済交流が停滞することなどを極度に恐れ、目に見える形での実効支配態勢を国際社会に対してアピールしようとはしない。魚釣島に漁船の避難施設を設置する、本格的な灯台を設置する、海洋気象測候所を設置するといった非軍事的方法を実行する意思すらもまったくないようだ。
現在、日本政府による唯一の対抗姿勢は、大統領をはじめとするアメリカ政府高官や米軍首脳などに「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲である」と言わせて、中国を牽制しているつもりになっているだけである。これでは、国際社会で「日本はアメリカの単なる属国にすぎない」との共通認識が定着する日も遠くはないであろう。