タイのコーヒーは「ロイヤル・プロジェクト」の賜物

 タイのコーヒー生産について見る前に、世界のコーヒー生産状況について簡単に触れておこう。

 コーヒー豆は世界中で栽培されているが、アフリカや中南米が主要産地であり、コーヒー豆生産の世界一がブラジルであることは常識といっていいだろう。ところが世界第2位となると、おそらく正確に答えられる人は少ないのではないだろうか。答えはベトナムである。

 FAO(国連食糧農業機関)の統計によれば(2016年)、ブラジルは年間300万トンを生産し世界第1位、ベトナムがブラジルの約半分で世界第2位、中米のコロンビアはベトナムの約半分で第3位、インドネシアが第4位、エチオピアが第5位となっている。このようにアジア勢の躍進は著しい(参考:GLOBAL NOTE)。

 アジアでは、タイやラオスでもコーヒー豆が生産されている。生産量でいうと、ラオスが世界12位、フィリピンが17位、タイは25位、ミャンマーは39位となっている。タイの生産量は3万3000トン程度である。東南アジアは気候的には熱帯だが、高地では朝晩の気温が下がり、コーヒー栽培には適しているのである。

 タイ国内のコーヒー生産の中心は、先にも見たようにタイ北部の高地ドイトンだが、コーヒーが栽培されるようになったのは、タイの前国王のプミポン国王が主導した「ロイヤル・プロジェクト」にある。非営利の財団によるこのプロジェクトが始まったのは1969年、いまから約50年前のことだ。

 時代は、ベトナム戦争のまっただ中のことであった。隣国ラオスはベトナム戦争に巻き込まれ、ラオス国内では内戦が長期化していた。そんな時代状況のなか、タイ北部地域を視察したプミポン国王は、麻薬生産以外に生計を立てる道のない山岳民族の状況を危惧し、麻薬以外の換金可能な作物の栽培を推奨するプロジェクトを開始することにしたのである。

 その第1段階として選定されたのが高地に適したコーヒー栽培であった。先進国スイスで教育を受け、自然科学の素養も深い前国王ならではの着眼点であったといえよう。

 ちなみに、タイで最も普及している魚は白身魚のティラピアだが、養殖魚としてタイに導入されたこの養殖魚はアフリカ原産で、皇太子時代の天皇陛下のアドバイスを受け入れたものだ。天皇陛下も自然科学の素養の深い生物学者である。