勇心酒造の研究開発風景(写真:勇心酒造提供、以下同)

 今でこそ、日本酒の蔵元が化粧品や医薬部外品などの事業に参入するのは珍しくないが、日本酒製成量がこれからピークを迎えようとする半世紀近く前には到底考えられなかったことだ。ところが、その時期に、鋭い洞察力で蔵元からバイオ企業へと舵を切った事業継承者がいた。“讃岐うどん発祥の地”として有名な香川県綾歌郡綾川町にある勇心酒造の5代目当主・徳山孝氏(76)である。

◎前編「日本酒業界のイノベーション、蔵元から医薬部外品」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51792

 テレビCMなどを通じて、多くの人が耳にしたことがあるであろう「ライスパワーエキス」の開発者であり、その「No.11」を使った「アトピスマイル」をはじめ、大ヒット商品を生み出している。

勇心酒造の代表取締役農学博士、徳山孝氏

 そして、その“原点”となったのが、1968年のある“決意”であった。

 時あたかも、高度経済成長の“負の遺産”としての公害が社会問題化し、米国のベトナム反戦運動に端を発した学生運動が日本国内でも先鋭化するなど物情騒然とした時代。清酒製成数量は右肩上がりを続けていたが、一方、蔵元の「場数」は減少し業界成熟化の影が忍び寄っている時期でもあった。