こうした背景から、この国では、日本の大学や学界によってさまざまなの形の協力が進められている。

 例えば、これまでにないスピードでインフラ整備が進み、正しい土木の知識が求められている工学分野では、土木人材層を拡充すべく、2013年よりヤンゴン工科大学を拠点に「高度工学教育拡充プロジェクト」が進められている。

 このプロジェクトに参加しているのは、千葉、新潟、金沢、京都、岡山、長崎、熊本の7大学。毎年50人以上の教員が日本から派遣され、教育や研究の抜本的な見直しと指導が行われているほか、ミャンマーからも40人の若手教員が日本の大学の博士課程に派遣され、再訓練が行われている(参照)。

 おりしも、日本の大学にとっても「留学生30万人計画」に始まり、「国際化拠点整備事業(グローバル30)」や「スーパーグローバル大学創成支援」など、日本国内で進む少子高齢化や激化する国際的な学生獲得競争、あるいは大学ランキングに見られるような外部からの厳しい評価にさらされている。

 その意味で、こうした連携は両国の大学にとってWin-Winの取り組みだと言えよう。ここミャンマーを舞台にした日本の大学の挑戦は、今後、まだまだ増えそうだ。

脱「詰め込み型教育」へ

 話を再び医学教育に戻そう。

 富田リーダーは、4年半のプロジェクト期間の中で、「ゆくゆくは、例えば病院の医療現場で変化が感じられるような、臨床系の指標も取りたい」と意気込みながらも、「形だけ整えるのではなく、地道に人を育てていきたい。研修プログラムを含め、物事が真の意味でミャンマー側に定着するよう、土壌の掘り起こしから進めたい」と慎重だ。

 基礎教育段階から詰め込み型教育が当然のように行われているミャンマーで、医学や工学のように、創造性やクリティカルシンキングが求められる分野の教育を国際レベルまで引き上げることは、決してたやすくない。

長崎大学で病理学を学ぶ長期研修員
千葉大学でも長期研修員が分子ウイルス学を学んでいる

 しかし、富田リーダーは、「いろいろな国と連携し、学術協定を結ぶことで学生の送り出しや受け入れの機会を少しでも拡大しようとしているこの国を見ると、失われた時間を取り戻そうと懸命なのが伝わってくる」ことに、希望を見る。

 このプロジェクトと前後して、この国の地方政府を含めた保健行政全体の在り方を政策提言する「保健システム強化プロジェクト」や、病院の医療器材の無償資金協力による整備も始まっている。

 この国の医療を包括的に底上げしようという挑戦がどのように花開いていくのか。これからが正念場だ。

(つづく)