これに対し、「臨床医学」が目指すのは、放射線科、産婦人科、消化器内科、臨床病理科の4分野にまたがる画像診断の技術と、救急科および麻酔科から成る救急医療技術の水準を引き上げるための研修プログラムの策定だ。

 その一環として、画像診断技術に関しては、ミャンマー国内の4大学から各分野の医師を年に2人、11週間ずつ日本に派遣している。

 冒頭のヤミンさんとミャットさんも、この枠組みによって金沢大学に派遣されたのだ。さらに、研修終了後は、各分野とも日本から専門家を呼び寄せ、ミャンマーで帰国研修員による普及セミナーの開催も支援している。

失われた時間を取り戻す

 この協力は、日本とミャンマー両国の大学が連携して進められているという点でも注目される。

 日本側からは、千葉、新潟、金沢、岡山、長崎、熊本の6大学がプロジェクトに参加し、長期研修員を受け入れたり、ヤミンさんたちのような臨床医学の短期研修を分担して実施している。6大学の事務局を務めているのは、岡山大学だ。

岡山大学で薬理学の指導教官と談笑する長期研修員

 

日本に短期派遣された救急科の研修員たちによる現地普及セミナーの様子

 実は、ミャンマーでは、反政府抗議運動に身を投じた学生たちと、それを取り締まる軍が衝突した「88年デモ」が連続して発生して以来、学生たちの集会を警戒する軍事政権によって、つい最近まで大学が封鎖されていた。

 旧宗主国の英国のカリキュラムが導入されていた医学部はかろうじて封鎖をまぬがれたとはいえ、「ある程度の“失われた世代(missing age)”の存在は否定できない」(富田リーダー)のは事実であり、中断された大学教育の質を再び向上するために喫緊の対応が求められている。