そんなミャンマーの医療教育を世界水準に近代化するため、ミャンマーで医療人材の底上げを図るべく2015年4月に始まったのが、「ミャンマー医学教育強化プロジェクト」だ。

 保健省傘下のヤンゴン第一医科大学とヤンゴン第二医科大学、マンダレー医科大学、そしてマグウェー医科大学の4大学を対象に、4年半の予定で実施されている。

研究の組み立て方を指導

 同プロジェクトの活動は、大きく「基礎医学」と「臨床医学」の2本柱に分けられる。

 このうち「基礎医学」では、解剖学、生物学、生化学、微生物学、薬理学、病理学の6分野を対象に、研究者の育成に取り組んでいる。

 ミャンマーでは、本人の希望ではなく、高校卒業時の試験の点数によって進路が振り分けられるのが一般的だ。中でも医学部は、最も点数の高い層が進学することになっているだけあって、「学生たちは皆、非常に優秀」だと、プロジェクトを率いる富田明子リーダーは感じている。

 しかし、いくら医学知識が豊富でも、設備が整っていないこの国では、どうしても実際に機器を扱いながら実験を行う機会に乏しい。

産婦人科の短期研修員が帰国後に開いた現地普及セミナーの様子

 

フロアからは活発な質問が出された

 そこで、同プロジェクトでは、上記6分野からそれぞれ2人ずつ、計12人を長期研修員として日本の大学の博士課程に4年間派遣している。日本の基礎研究や最新の手法に触れる絶好の機会と言えよう。

 とはいえ、「最新の実験機器の扱い方を習熟させること自体が目的なのではありません」と富田リーダーは強調する。機器の技術は日進月歩で進んでおり、いくら最新の技術を学んでも、いつの日か、より革新的な技術が開発されていくからだ。

参加者を激励するヤンゴン第一医科大学のゾー ウェイ ゾー学長

 目指すのは、あくまで「どんな考え方で研究を組み立てれば良いか分かる教育者になってもらう」(富田リーダー)こと。

 そのために、プロジェクトでは、12人を日本に長期派遣するだけでなく、彼らを受け入れている日本の大学の指導教官もミャンマーに招き、この国の医学教育や研究の現状を理解してもらうよう働き掛けている。

 それにより、研修員たちが日本で4年間、日本の医学技術に触れつつミャンマーの実態に即した指導を受け、ミャンマーの所属先に戻った後には、医学研究を続ける傍ら、同国の医療をけん引しつつ後進の育成に携わる中心的な存在になることが期待されているのだ。