東トルコ、ディヤルバクルの街

 2月27日、シリアで、2週間の停戦が発効した。米露の呼びかけに応じたもので、IS(イスラム国)、アルカイダ系のヌスラ戦線は対象外。散発的戦闘はあるものの、おおむね平穏だという。しかし、アサド政権、反体制派双方が停戦違反を主張、予断を許さない。

 一方、欧州の難民流入の波はやまず、バルカン半島諸国が入国者数を制限し始めたことから、国境は立ち往生する人々で溢れている。EUは、シリアからの出口、EUへの入り口ともなる「十字路」トルコに、既にいる難民をとどまらせるよう、協力を求めている。

 しかし、トルコの事情は複雑だ。ロシアとは、近年の最大輸入相手国でありながら、昨年11月、トルコ軍機がロシア戦闘機を撃墜してから、関係は冷え切っている。歴史的確執もある。

 米国とは冷戦時代からのNATO(北大西洋条約機構)の盟友だが、米国が対ISで協力関係にあるYPG(クルド人民防衛隊)は、このところトルコ国内で治安維持機関との衝突が激化しているPKK(クルディスタン労働者党)の関連組織。トルコが拠点を砲撃するまでになっている。

国内の難民は既に250万人

 欧州ほど報道されることはないが、国内の難民数は既に250万人とも言われ、昨年6月20日の「世界難民の日」には、UNHCR特使も務める女優アンジェリーナ・ジョリーが、シリア国境に近いマルディンの難民キャンプから、難民支援強化を訴えている。

 年末から公開されている『消えた声が、その名を呼ぶ』(2014)は、そんなマルディンから物語が始まる。時は1915年。アルメニア人鍛冶職人ナザレットは、突然、官憲に連行され、多くのアルメニア人とともに、砂漠での強制労働につかされる。

 挙句に、喉を切られ殺害されそうになるが、声は失ったものの、九死に一生を得、脱走。家族を探し、たどり着いた強制収容所で聞いたのは妻子の死だった。

 戦後、アレッポ(現シリア)で暮らすナザレットは、娘が無事との情報を得、レバノン、キューバ、米国とはるかなる路を行く・・・。

 トルコは、哀悼の意は表しても、あくまでも戦争、混乱、病気による、とし、いまだ議論絶えない第1次世界大戦中のアルメニア人「ジェノサイド」の災禍の物語は、トルコ系ドイツ人監督ファティ・アキンが描く「愛、死、悪に関する三部作」最終章「悪」。しかし、主人公の命を救うのは悪たるトルコ人であり、娘探しの資金稼ぎには自ら悪もなす。

 なぜ、こうした悲劇が起きたのかを考えるには、さらに歴史をさかのぼる必要がある。