従来、こうした建築物の解体については、文化的価値と経済的利益という対立軸で議論が行われてきた。経済合理性というものを軸に考えた場合、誰かがそのコストを負担する仕組みが構築できない限りは、古い建造物を維持するという結論には至らない。その結果として、現実に多くの建造物が解体されてきたわけだが、この理屈は果たして本当なのだろうか?

 同じ時期、米国でこれとは正反対の出来事があった。ホテル運営大手のヒルトン・グループが、同社が所有するニューヨークの高級ホテル「ウォルドルフ・アストリア・ニューヨーク」を中国企業に売却したのである。

大規模修繕でさらに100年営業するNYの老舗高級ホテル

 ウォルドルフ・アストリア・ニューヨークは、言わずと知れたニューヨークの超名門ホテルである。開業は1893年と古く、ヒルトン創業者であるコンラッド・ヒルトン氏が1949年に買収したことで同グループ入りした。天皇陛下をはじめとする各国の元首が宿泊に使用してきたほか、アイゼンハワー元大統領やマッカーサー元帥、マリリン・モンローなどが自邸として使用していたこともある。建物は当時流行だったアールデコ調の装飾が施されており、ニューヨークの歴史的建造物にも指定されている。

 ヒルトン・グループ内では同社の高級ブランド「ウォルドルフ・アストリア・ホテル・アンド・リゾーツ」の旗艦ホテルという位置付けになっており、オークラ・グループにおけるオークラ東京と非常に似た立場にある。

 まさに米国を代表するホテルの1つなのだが、オークラ東京と同様、建物の老朽化と客室単価の下落に悩まされていた。客室スペースも現在の標準的な高級ホテルと比較すると狭く、高級ホテルとしては完全に競争力を失っていると見てよいだろう。ここまではオークラ東京と同じ状況なのだが、違いはその後の展開である。

 同ホテルを買収した中国企業とヒルトン・グループは100年間の業務運営受託契約を結んでおり、実質的にはこれまでと同様、ヒルトン・グループが運営を行うことになる。しかも中国企業は多額の費用をかけて、大規模修繕を実施するという。

 ヒルトンにしてみれば、所有権は中国企業に移ったものの、半永久的に営業を継続することができ、しかも文化的価値が維持されるよう大規模修繕まで実施される。しかも売却価格は、破格の19億5000万ドル(当時のレートで約2300億円)である。高い収益を上げつつ、文化財的な価値も維持されるという完璧なスキームと言える。