6月末にイスラム国(IS:Islamic State、またはアラブ語でDaesh1)を設立したと発表したアブ・バクル・アル・バグダディ(Abou Bakr al-Baghdadi)は、自らをカリフ2とし、イラクからシリアにまたがる地域において、事実上、勢力拡大を続けている。

テロのグローバル化を刺激するイスラム国

 その背景には宗派対立(シーア派対スンニ派)、民族問題(クルド人問題)、地域における大国であるイラン(シーア派)対サウジアラビア(スンニ派)の覇権対立の構図、依然としてシリアにおいて影響力を持つロシアの存在など、複数の要因が絡み合っており、また、中東は資源の宝庫であるため、常に不安定な情勢となっている。

 そうした中、イスラム国はその凶暴性を用いながら、メディアを巧みに操り、イデオロギーを浸透させ、影響力を拡大している。

 「サイクス・ピコ協定3」 においてフランスと英国が引いた国境線を消し――要するに西洋文明を否定――シャリア(イスラム法)を基本にしたイスラムスンニ派・サラフィージハード主義を広げようとしているイスラム国は、本来のイスラム教徒の敵でもある。

 だが、そのイデオロギーに共鳴する者は増える一方であり、アジア、アフリカを含む世界中のイスラム過激派グループから、忠誠を示す声が上がっている。

 こうしてテロリズムがグローバル化する中、イスラム国は今年2月にアルカイダと絶縁。イスラム国対アルカイダというジハード組織同士の競争・対立構図ができあがり、テロリスト組織間でのリーダーシップ争いになっているとも言える。

 そして今、そのイスラム国による影響が、アフリカ諸国(特に北・西アフリカ)およびサヘル地域4においても大きな懸念材料となってきている。

1 イスラム国は“国”でないという理由からフランス政府はDaesh(ダーイシュ:イスラム国のアラビア語名称の頭字語)を使っている。仏メディアに関してはそれぞれである。

2 “後継者”を意味する世界中のイスラム教徒の指導者

3 1916年、第一次世界大戦中にイギリス・フランス間で結ばれた秘密協定。戦後を見据えて中東分割を行ない、国境線を引いた。

4
サハラ砂漠南縁部に位置する半乾燥地帯。西から東に、大西洋から紅海に及ぶ国々を含む。カーボベルデ、セネガル北部、モリタニア南部、マリ、アルジェリア最 南部、ブルキナファソ北部、ニジェール、ナイジェリア最北部、チャド中部、スーダン中部を含む。エリトリア、ソマリア、エチオピア、ジブチを加えることもある。