「BABOK(ビーエーボック、Business Analysis Body of Knowledgeの略)」という言葉を聞いたのは、2008年の今ぐらいで、暑い時だった記憶がある。

 それから、初めて体系立てて概要を聞いたのは、2009年12月9日。アイ・ティ・イノベーションの林衛(はやし・まもる)社長によるセミナーであった(林社長とは非常に懇意にしていて、年に1回、2泊3日の旅行をしながら、よく今後のIT業界などについて語り合っている)。

 BABOKとは、ビジネスニーズを特定してビジネスソリューションを決定するための知識体系である。作成したのは、非営利団体の「IIBA(International Institute of Business Analysis)」だ。

 ユーザー企業はビジネス上の問題点は把握しているものの、それをシステムでどう解決できるのかが分からない。一方、システムを構築する側は、システムに盛り込むべき機能が明確にならないため、要求定義を確定できない。BABOKは、そんな両者の橋渡しをする「BA(ビジネスアナリスト)」の役割を定めたものだという。

日本で定着しなかった「BA」という職種

 私が思い出したのは、1992年頃、ジェームズ・マーチン博士(連載の第1回を参照していただきたい)の講演でよく聞いた「BA(ビジネスアナリシス)」という言葉である。

 システムを構築する際は、ビジネスの分析、論理モデルと物理モデルの設計などいろいろな角度からの検討が必要不可欠だ。

 通常、システムは「計画・分析・設計・構築」という手順をたどる。この「計画・分析」の段階では、ビジネスの分析と、ITによる解決方法の提示を行うBAが必要となる(このことは連載の第1回第2回第3回でも述べた)。BAの専門職は、プロジェクトマネジャー(PM)と同様に、上流工程では欠かせない。

 BAの役割を担うのは、日本では一般的にコンサルティング会社だ。BAは日本でなかなか職種として定着しなかった。その理由としては主に以下のようなことが挙げられる。

(1)当時、BAの仕事はBABOKのように体系立っていなかった。
(2)実務・業務経験が浅い(ない)コンサルタントが、マニュアルに沿って対応していた。
(3)ユーザー企業内の業務知識のある人が、プロジェクトに参加していなかった。

 私は、BAとPM、SE、プログラマーはまったく違った役割があり、それぞれ専任でやるべきだと考えている。だが、よくこの業界ではSEが「ジョーカー」のような役割(全ての役をこなすという意味)をしている。

 例えば金融関連のプロジェクト参画時に、ユーザー企業から「金融業界に詳しいSEはいませんか?」などと聞かれることがある。しかし、SEはやはりSEなのである。基本的に、BAには実務経験の積み重ねが必要だ。SEからBAになるのは至難の業であると思う。

ITバブル期に「上場の専門家」を育成

 手前味噌になるが、当社の場合はIT業界で様々なブームが起きるたびに、それに対応する「BA的」な人材を育ててきた。