私が、この業界に入った20年ほど前、ソフトウエア開発理論で名を知られるジェームズ・マーチン博士(第1回のコラムを参照)が、講演などでいつも口にしていたことがある。

 まず、システムと組織には「KAIZEN(改善)」が必要だということ。システムをいったん作ってそれで終わりにするのではなく、「システムに合わせた組織を作る」「組織に合わせたシステムに再構築する」のが必要、ということであった。

 何よりも「システムは生き物なので、どんどん成長させなければならない」と言っていた。具体的には、「総売り上げの5%前後を、システム開発に投資し続けるべき」というものであった。ビジネスモデルの変化を絶えずシステムと組織に反映すべき、という考えである。

プロジェクト担当者は「兼務」ではなく「専任」で

 その一方で、マーチン博士は講演でよく「ある国の経営者は、システム開発にあまりにも過剰な費用を投入している」と指摘していた(「ある国の」と言いながら、日の丸の国旗が大きくスクリーンに出た時は、会場からどよめきと笑いが起きていた)。

 確かに、私が実際にいろいろなシステム開発を見てきたところ、無駄で余分な費用をかけている事例が散見される。

 大きな原因の1つとして、システム開発時の準備不足が挙げられる。

 経営者がシステムの再構築を決定したとしても、実際に開発に携わるのは現場の担当者である。担当者は、日常の実務をこなしながらの「兼務」となる。そのため、往々にして担当者は事前準備なしで場当たり的な対応をしたり、開発者との打ち合わせの場で、システム要件の可否を判断したりすることになる。

 結果的に、仕様を確定した後でも「あの部分の仕様は、部内に持ち帰り検討した結果、変更が必要だということになりました」ということがしょっちゅう起きる。

 これが日本独特の「仕様変更」(「機能追加」も含む)である(先日、インドのソフト開発会社を訪問した折に、「仕様変更」が日本の文化だと話しているのを聞いて、苦笑してしまった)。