また今年も10月となり、ノーベル賞受賞者が発表され始めました。例年ですとここでなぜか私の携帯電話が変に鳴り出し、コメントその他の依頼がくるのですが、今年はそれがありません。と言うのは、日本の携帯電波が入らないドイツで仕事をしているからで、今はベルリンでリハーサルをしているところです。

 これから移動して来週は中南部、バイエルン州のバイロイト祝祭劇場で「トリスタンとイゾルデ」「神々の黄昏」など、作曲家リヒャルト・ヴァーグナーの楽劇作品の抜粋を、劇場との共同プロジェクトで演奏するところで、さすがに演奏に集中させてもらっています。

 この原稿も少し遅れてしまい、申し訳ありません。

 さて、今年のノーベル賞ですが、物理については、変な話ですが、実は「僕らの世代にもついに出る時代になったのだな」という手ごたえを持っています。

 どういうことか・・・。もう少し噛み砕いてお話いたしましょう。

 ヒッグス粒子とCERN実験

 今年のノーベル物理学賞は、ベルギー・ブリュッセル自由大学のフランソワ・アングレール名誉教授と、英エディンバラ大学のピーター・ヒッグス名誉教授、2人の理論物理学者が受賞しました。

 アングレールさんは1964年、私たちが存在するこの世界で、物質を作っている大本の粒子、つまり素粒子が「質量」、重さを持つ仕組みを説明する理論を発表しました。

 またこのアングレールさんの仕事の直後に、独立して、ヒッグスさんは、物質に質量をもたらすメカニズム(ヒッグス機構として知られる)を提唱、そこで働く粒子として「ヒッグス粒子」の存在を予言しました。

 1964年というのは(前回の)東京オリンピックの年に当たります。

 すでに49年も経った業績と言いますか、実は私の学年は東京オリンピックの年に生まれているので(私は正確には65年の1月生まれですが)、ヒッグス機構はすでに確立された物理の理論として四半世紀前には普通にテキストに印刷されていて、1980年代に物理学科の大学生だった私も教科書で習ったような「現代の古典」にほかなりません。