JBpressの連載コラム「まちづくりの哲学」(連載は2009年1~12月)でおなじみの哲学者、小川仁志さんが『人生が変わる哲学の教室』(中経出版)を著した。前代未聞の哲学エンターテインメント書である。

 本書では、歴史上の著名な哲学者たちが深夜、とある高校の教室に現れて、悩める若者やサラリーマン、主婦といった人たちに授業をしてくれる。

 話題は社会問題から映画までと幅広い。時にはプラトンやカントが現代の映画を語ってしまうのだ。そして、授業を受ける主人公たちはどんどん悩みを解決し、人生を変えていくという設定である。本書は、まさにかつてない「時空を超えた」哲学解説書なのだ。

難解な哲学の「通訳」を買って出た

── 歴史上の著名な哲学者がいきなり現代社会に現れるという設定からして、今までの哲学解説書とはまったく違いますね。

人生が変わる哲学の教室』(小川仁志著、中経出版、1600円、税別)

小川氏(以下、敬称略) 世の中には哲学の解説書がたくさんあります。ところが、はっきり言ってほとんどがつまらなくて読む気にならない。マンガとか「よくわかる」シリーズなどもありますが、こちらは簡略化しすぎていて、逆によく分からない部分が出てきてしまう。だから、本質を伝えていて、それでいて分かりやすい入門書が求められると、考えていました。

── 哲学者の言葉はとかく抽象的で難解です。分かりやすく伝えるのはさぞかし難しいことと思います。

小川 確かにそうですね。例えばカントの有名なフレーズに「汝の意志の格率が、常に同時に普遍的な立法の原理となるように行為せよ」というのがあります。この部分を一読しただけでは、何のことやらさっぱり分からないですよね。つまり日本語になっても難しい。単にドイツ語やフランス語を日本語に直しただけでは意味がないんです。

 実は、これは、カントの言う道徳的に正しい行為の基準の話で、「常に万人が納得する基準に基づいて行為しなさい」という意味なんです。こんなふうに説明すれば分かってもらえるのではないでしょうか。

 だから私は現代人のために難解な哲学の「通訳」を買って出てみたわけです。物語風になっていて、かつ分かりやすい授業のように解説してくれる哲学書を自分で書いてみることにしました。