秀逸なネーミングで日本に定着、
モンゴル生まれの鍋料理「しゃぶしゃぶ」

2011.11.11(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 鍋のほかほかとした湯気が恋しい季節になってきた。

 鍋ものは古くから日本にある料理のように思われるが、その歴史が花開いたのは江戸後期と意外に浅い。湯豆腐やシャモ鍋、ドジョウ鍋――1700年代後半頃から、江戸では七輪や火鉢を用いて鍋を火にかけ、煮ながらにして食べる「小鍋立て」の料理がブームになる。背景には、農村で囲炉裏の鍋ものを取り分けて食べる風習があった。

 明治期になると、牛鍋の流行も一役買って、鍋料理はさらに普及する。牛鍋はご存じ、すき焼きのことである。

 つらつらと鍋の歴史を眺めているうちに、ふと疑問が湧いてきた。

 同じく牛肉を使った「しゃぶしゃぶ」は一体いつ登場したのだろう。

 牛肉の鍋といえば、すき焼きとしゃぶしゃぶが2大巨頭である。醤油と砂糖で味付けしたこってり系のすき焼き。対して、さっと肉を湯にくぐらせてポン酢やごまだれにつけて食べるさっぱり系のしゃぶしゃぶ。

 どっちかを選べと言われたら(そんな機会はまずないと思うが)、私は正直悩む。すき焼きの、茶色く色づいた肉を思い浮かべるだけで、口の中に唾がわいてくる。だが、肉本来の味を堪能するシンプルなしゃぶしゃぶだって捨てがたい。結局はその時の気分でしか選べないんじゃないだろうか。それほど、すき焼きとしゃぶしゃぶは甲乙つけがたい。

 だが、その来歴となるとどうだろう。すき焼きについては、文明開化の象徴だったこと、関西や関東では食べ方が違うことなど、ざっくりとした知識がある。一方、しゃぶしゃぶについてはまったくと言ってよいほど知らない。

 牛肉を使っていることから、明治時代以降に登場した料理であることは間違いない。しかも「しゃぶしゃぶ」という擬音めいたネーミングに、意図的なものを感じる。ならば、この機会にしゃぶしゃぶのルーツを辿ってみることにしよう。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の源流探訪

日本人が日常茶飯としている定番食。あまたある食べものの中で、
なぜそれが定番になり得たのか。どのように日本化されていったのか。
「新・日本食」の源流からの流れを、歴史をひもときながら考察する。