もうしばらく前の流行語になると思いますが「しょう油顔」「ソース顔」というのがありました。いずれにしても二枚目の男性を指すものと思いますが、日本風の一重まぶたの美男子を「しょうゆ顔」、ややバタ臭い・・・この表現もすでに十分古びていますが、やはりバターという食材が登場しています・・・西洋風の二枚目を「ソース顔」と言ったのだと思います。
例えばジャニーズ少年隊の東山紀之君のようなスッとした二枚目を「しょう油顔」というのだと理解しているのですが、もしかして違っていたらお許し下さい。
いずれにしても、そんな、日本の代名詞のような調味料「醤油」ですが、このところすっかり世界に蔓延しているように思うのです。
「黒い液体調味料」
すでにこの世を去られた、20世紀の日本を代表するピアニストのS先生が、ヨーロッパでデビューを飾られた時の話、として伺ったエピソードをご紹介しましょう。
私たちクラシックの音楽家は、ある種社交界デビューのようなことがとても重要になる局面があります。紅顔の美少年、あるいは美青年と言うべきか、そんな若者であった20代前半のS先生、パリに渡って勉強を続けられました。
いったん帰国後、改めて今度はドイツに留学し、欧州でのコーディネートをしてくれたマネージャーさん(?)から、ベルリンでの大切なデビューの3日前に言われたことがあるそうです。
「お前が日常的に使っている日本の調味料の黒い液体、あれをこれから3日間、使わないようにしなさい」
黒い液体、言うまでもなくお醤油ですが、いったいなぜそれがダメなのでしょう・・・?
確かにS先生、長い船旅(という時代の話です。昭和20年代後半頃でしょう)でもパリでの生活でも、食のホームシックにかからずに済んだ大きな理由は「お醤油」にあったというのです。
たとえフランスで肉や魚を食べていても、そこに一滴、お醤油が入れば、あっという間に日本風に変身してしまう、それくらい強烈な調味料である「黒い液体」。