日欧食生活事情、なんて言うほど大げさなものではありませんが、ここ数十年の間にずいぶんと「目に見えないグローバル化」が進んでいる、というお話です。

 私が初めてドイツに留学した1983年には、いまだベルリンの壁は健在で、アンドロポフ書記長率いるソ連は明確な脅威であり続け、ロナルド・レーガン政権はSDI(戦略防衛構想)なる宇宙戦争を本気でアピールしていました。

 朝のNHKニュースでは「レールガン」などの宇宙兵器開発が紹介され、中曽根康弘首相の「不沈空母」発言は、徴兵適齢期の私には十分不気味なものでした。

欧州にすっかり根付いたドネルケバブ。一緒にカレーソーセージも売っている(写真は筆者、以下同じ)

 いま、ベルリンでもミュンヘンでも、いやパリでもブリュッセルでもいいのですが、欧州の大都市を歩くと「SUSHI」などの看板を頻繁に目にします。

 これを「すし」「寿司」と思うとちょっと違っていて、ドイツ人は「ズーシー」としか発音しませんし、江戸前とかそういう日本食とはちょっと違った、よく分からないアジア風の偽造寿司を口にすることになります。

 SUSHIより頻繁に目にするのは「ドネルケバブ」です。日本でも目にすることが増えましたが、元来はトルコの伝統的な料理、ミンチや層状に重ねた肉を串に刺して巨大な塊とし、回りからぐるぐると焼いて刀で薄切りにして供します。

 「ベルリン・カレーソ-セージ」と同じかそれ以上の頻度で、町の随所に店があります。

 ケバブの特徴は、屋台以上に店が多いことでしょう。つまり「トルコ料理屋」がベルリンなどには非常に多い、ということです。これは何を示しているか?

欧州に広まったケバブと「アジア人」

 ケバブ屋を経営し、肉をぐるぐる回しているのはトルコ人の店主です。あるいは従業員かもしれませんが、ポイントは、それだけの数、トルコ人のドイツ在住者が多い、ということを意味しているわけですね。

 これは店の経営者だけではありません。そこにやって来る顧客もそうだし、そもそも、朝一番にケバブ店の前を通ると、冷凍食品の巨大な(直径50センチ、長さ1メートル弱くらいの)ケバブの肉を炉にセットしていますから、そういう食品製造業も物流も確立していることが察せられます。