「夏休みだって? そんなに先のことは考えられないね」。受話器の向こうから聞こえてくるトレーダーの声は、半ば呆れ、苛立っていた。昨秋の金融危機以来の騒動に一段落がつき、「そろそろ休みでも取るんですか」という気安い問い掛けが癇に障ったようだ。マーケットの雰囲気を「夏休みムードすら漂う」とした前号(「市場の『緩み』に落とし穴はないか」2009年6月17日)の表現を早々に撤回せざるを得ない。

米連邦準備制度理事会、ゼロ金利を維持

FOMC声明で市場の早期回復期待がしぼんだ〔AFPBB News

 五里霧中――。市場を覆う靄(もや)が急速に濃度を増したのは、一部の期待に反して、米連邦公開市場委員会(FOMC)が引き続き慎重な景気見通しを示したからだ。

 雇用減少を反映する高失業率、底ばいを続ける住宅価格。リセッション(景気後退)の源に改善の兆しが乏しい中で、米金融政策当局が景気見通しを上方修正するはずもない。それを分かっていながらも、市場関係者は商機を演出するきっかけを欲していた。それゆえ、つれない声明には「裏切られた」と逆恨みする声が少なくない。

下げ止まらない米住宅価格

1月の米住宅価格、主要20都市で過去最悪の前年比19%減

住宅市場の回復に力強さはない・・・〔AFPBB News

 新築一戸建て物件の売買が少ない米国では、中古住宅販売の動向が住宅市場の大きな目安となっている。米不動産業者協会(NAR)が毎月下旬に公表する販売件数の前月比増減率(速報値)を並べてみると、昨年12月が6.5%増、今年1月が5.3%減、2月が5.1%増、3月が3.0%減、4月が2.9%増、5月が2.4%増と見事な凸凹ぶりである。

 米商務省統計の新築住宅販売件数も同様に波打っており、発表のたびに市場は一喜一憂させられてきた。そして今春以降の強弱まちまちな数字の動きを「景気が底打ちしたか、もしくは底打ちが近い証拠」(証券ディーラー)とポジティブに捉え、株価回復の根拠としてきたのだ。

 しかし、もう1つの信用度の高い住宅指標として知られている、ケース・シラー住宅価格指数は深刻な住宅不況を映し出したままだ。毎月最終火曜日に公表される同指数は、2カ月前にさかのぼったもので遅行性があるが、全米主要10都市圏の指数は2006年6月から2009年3月まで33カ月連続で下がり、2003年6月以来6年ぶりの低水準となった。指数はピーク時から33%も下がった。株価の調整と同様、多くの市場関係者は当初、「住宅価格は2割下落した頃が転換点」と楽観していたが、実態は反転どころか下げ止まらない。

 「今回の不況はそんなに甘くない」と言い続けてきた米ヘッジファンド首脳は、「サブプライム問題の根本は住宅バブル。そこに簡単にファイナンスが戻ってくると考えることが間違いで、価格はまだ下がる」と言い切る。

 増減を繰り返す販売件数と、下落し続ける価格は、弱い上に定まらない住宅需要を象徴している。オバマ政権は今年2月、初めて住宅を買う人を対象に、購入価格の1割、最大8000ドルを減税する刺激策を打ち出した。NARも「政策の効果が表れてきている」と手応えを感じているようだが、回復に力強さはない。しかも、減税措置は11月末で打ち切られる。