米国で100年に及ぶ議論がひとつの決着をみた。「テディ」の愛称で国民に親しまれた第26代大統領のセオドア・ルーズベルト(在任期間1901-09年)が提唱し、何度も挫折を繰り返してきた国民皆保険制度が不完全な形ながらも導入されることが決まったのだ。バラク・オバマ第44代大統領が「歴史的な偉業達成に職を賭した」(ニューヨーク・タイムズ紙)と評される医療保険改革は大きく前進した。

米医療保険改革法が成立、オバマ大統領が署名

悲願達成。ホワイトハウスで議員らに囲まれて医療制度改革法案に署名するオバマ大統領〔AFPBB News

 国民皆保険とは、すべての国民が何らかの形で公的な医療保険制度の恩恵を受けている状態を指す。先進国で実現していないのは米国だけで、政府の介入が市場原理を歪めることを極端に嫌う国民性が導入を阻んできたとされる。

 しかし、それは建前論に過ぎない。米国は奴隷制度を礎に国作りが始まり、厳然たる人種差別による搾取が、「収益」を生み出してきた。それゆえに、万人を平等に扱う国民皆保険の発想に対しては、既得権を持つ保守層が強い抵抗を感じるという説には、それなりの説得力がある。

 米国勢調査局の2008年資料によれば、無保険者は全米で4634万人に上り、米国民全体の15.4%を占める。無保険者の割合を人種別に見ると、白人10.8%に対し、アジア系は17.6%、アフリカ系は19.1%、ヒスパニック(中南米)系に至っては30.7%に跳ね上がる。また移民層では33.5%を占め、実に3人に1人が保険に入っていないのだ。

 また、年収別に医療保険の非加入率を見ると、2万5000ドル(約230万円)未満の最低所得層が24.5%ともっとも高く、7万5000ドル(約690万円)以上の世帯は8.2%に過ぎない。非白人、低収入層が、保険に入れない──という構図が浮かび上がってくる。

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レントゲン撮影だけで10万円近くかかる!?(資料写真)〔AFPBB News

 医療保険の加入実態は米国社会の縮図だ。「金持ちなら何の不自由もない」ということでもある。風邪で病院に行くケースから、集中治療室に担ぎ込まれるような深刻な事態までをフルカバーしようとすると、月額保険料が5000ドル(約46万円)という医療保険も決して珍しくない。

 米国では、レントゲン撮影だけで1000ドル(約9万2600円)を当たり前のように請求され、虫歯治療でも数千ドル単位の支払いが必要になる。当然、保険金支払い額は大きくなり、それを賄うための保険料も吊り上がる。短期的な利益確保を株主から求められる保険会社にしてみれば、保険料をきっちり払える層のみをターゲットにする方が効率的だ。