英語の声明文を読み上げる声がうわずっている――。極度の緊張感を漂わせた豊田章男・トヨタ自動車社長が、米下院公聴会で証言の口火を切ったのは24日午後2時過ぎ。海千山千の米議員を相手にした「御曹司」の試練は、事態の先行きに不安を抱かせるシーンから始まった。
公聴会がセットされた「レイバーン・ビルディング」は、オバマ米大統領が就任演説を行った連邦議事堂の南西に位置する議会別館だ。証言開始の5時間以上も前、人目を避けるようにうつむき加減で入館した豊田氏をテレビカメラが追う。
委員会室周辺には、日米だけでなく、中国、韓国、中南米などの報道機関から200~300人が詰め掛け、通路をふさぐ勢い。「こんな状況は見たことがない」(議会関係者)という混乱ぶりがメディアの関心の高さを物語っていた。
大規模リコール(回収・無償修理)問題で、豊田社長は、米議会に引きずり出された。当初、公聴会への対応を米国の現地社長に任せると発言した経緯があり、議会からの正式招致を受けての出席には、「圧力に屈した」との批判が根強い。
逆風吹きすさぶ環境で、どこまで説明が通用するのか。決して英語が得意とは言えないトヨタ首脳の公聴会出席は、分の悪い賭けにも見えた。今回はウォール街を抜け出し、キャピトル・ヒルから、その顛末を報告する。
ブリヂストンの二の舞いは避けたい
日本企業トップの米議会証言で思い出されるのは、ブリヂストンの米子会社ブリヂストン・ファイアストン(BSF)製タイヤのリコール問題だ。このタイヤを取り付けたフォード・モーター車の横転事故で死傷者が続出。タイヤ650万本を回収する事態に発展した。
フォードの欠陥隠しも追及されたが、2000年9月、議会に呼ばれたBSFの小野正敏会長(当時)は謝罪を繰り返し、BSF側が責任を認める形になってしまった。その後、数多くの損害賠償請求訴訟で不利な立場に立たされたのは苦い教訓だ。
トヨタにその二の舞いは許されない。豊田社長は渡米前、「誠心誠意説明する。米議会と市民の皆さんと直接話せるのが楽しみだ」と語っていたが、前向きな言葉とは裏腹の悲壮な覚悟を胸にワシントン入りしたことは想像に難くない。
豊田氏が公聴会に臨む前日には、下院エネルギー・商業委員会小委員会の公聴会に、米国トヨタ自動車販売のレンツ社長が出席。不意に急加速する苦情について「現時点で電子制御装置に問題は見当たらない」と繰り返し説明したが、欠陥を疑う議員らの反発を招いた。
双方の主張は平行線をたどり、ワクスマン同委員長が「続きは明日の公聴会に期待する」と不気味に予告。豊田章男社長と議会の「直接対決」に向けて、否が応でも緊張感が高まっていった。