マイクロソフトのサティア・ナデラCEO
写真提供:DPA/共同通信イメージズ

 理不尽な要求、無駄な手続き、使いにくいシステム──組織には、人の意欲と時間を奪う“摩擦”が溢れている。問題の本質は何か? どうすれば取り除けるのか? スタンフォード大学の組織論研究者が著した『FRICTION』(ロバート・I・サットン、ハギー・ラオ著、高橋佳奈子訳/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。

 なぜマイクロソフトは、協力する従業員に報いる組織へと生まれ変わったのか? その背景にある哲学に迫る。

連携の破綻

FRICTION(フリクション)』(日本能率協会マネジメントセンター

 スティーブ・バルマーが2000年から2014年までCEOを務める間にマイクロソフトで作りあげた文化や、結果として生まれた報酬システムは、同僚を顧みず、中傷し、陰で攻撃する従業員に報いるような悪名高いものだった。同社のあるエンジニアは、このように述べている。「従業員は、業績を上げたことでではなく、同僚の足を引っ張ったことで評価されていました」。

 CEOがサティア・ナデラに交代した直後の2014年、私たちがマイクロソフトを訪れると、従業員たちはバルマー時代の企業文化や報酬システムによってもたらされたダメージについて、率直に語ってくれた。私たちは300人ほどのマネジャーを対象に講演を行ったのだが、その際、1枚のスライドで、当時ベアード社(金融サービス会社)のCEOだったポール・パーセルの言葉を紹介した。ポールは、「自分たちのニーズを顧客や同僚や会社よりも優先する」人間を「クソッタレ」と呼んだ。

 これを聞いて、後ろのほうの席に座っていた女性が声を上げた。「それ、まさに今うちの会社にいるほとんどのエグゼクティブのことだわ。サティアは別だけど」。彼女の言葉に、会場で大きな拍手が沸き起こった。私たちは、いくつか例を挙げてほしいと聴衆に頼んだ。

 すると、1人のマネジャーがあるエピソードを話してくれた。マイクロソフトのOSは、少し前に製造中止したマイクロソフトのスマートフォンよりも、アップルのiPhoneとのほうが、相性がいいというのである。「マイクロソフトでは、敵とはアップルではなく従業員同士のことを指すから」というのがその理由だった。