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 理不尽な要求、無駄な手続き、使いにくいシステム──組織には、人の意欲と時間を奪う“摩擦”が溢れている。問題の本質は何か? どうすれば取り除けるのか? スタンフォード大学の組織論研究者が著した『FRICTION』(ロバート・I・サットン、ハギー・ラオ著、高橋佳奈子訳/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。

 事業展開のスピードが速く、急成長中の企業がはまりやすい罠とは? 摩擦がなかったがゆえの失敗をウーバーを例に考察する。

スピードと興奮

FRICTION(フリクション)』(日本能率協会マネジメントセンター

■ スピードの出し過ぎ:雪だるま式に増える組織の負債

 スピードの出し過ぎによるダメージは組織全体に波紋を広げ、有害な負のスパイラルを引き起こすことがある。そこに一度勢いがついてしまえば、リーダーが流れを変えることは困難だ。

 困り切ったリーダーがお粗末な意思決定を下したり、ミスを犯したりして、より差し迫った問題を生じさせ、それを放置することもある。また、従業員が業務量に圧倒されて次々にバーンアウトに陥ったり、利己的な行動や卑劣な行動を取るようになったり、さらにお粗末な意思決定を下したり、創造性を失ったりしてしまうこともある。そうなれば、組織に関わる全員に害が及ぼされることになる。

 スピードの出し過ぎが組織をむしばむのは、システムや文化、テクノロジーに関わる必須業務がいつまでも延期される――あるいは結局そこに手が回らないままになる――からでもある。ソフトウェア開発の世界では、プログラマーの必須作業に遅延が生じると、組織に「技術的負債」が発生する。

 このような負債は、たとえばエンジニアが、バグがあったり、説明が不充分だったりするコードを慌ててリリースしておきながら、「それは後でやろう」とか、「そのうちに」とか、「大きな問題になったら、どこか別の場所で作業しよう」とか言っているうちに蓄積されていく。

 これと似た論点で、ベテランのテクニカル・エグゼクティブであるスティーブ・ブランクは、事業展開のスピードが速く、成長著しい企業の多くは、過剰な「組織的負債」を抱えていると述べている。こうした負債は技術的負債よりも「いっそう早く組織を破滅させる可能性がある」そうだ。