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理不尽な要求、無駄な手続き、使いにくいシステム──組織には、人の意欲と時間を奪う“摩擦”が溢れている。問題の本質は何か? どうすれば取り除けるのか? スタンフォード大学の組織論研究者が著した『FRICTION』(ロバート・I・サットン、ハギー・ラオ著、高橋佳奈子訳/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。
決まったはずの話が何度も蒸し返される会議の無限ループ。意思決定の形骸化を阻止する方法とは?
無自覚なリーダーたち
『FRICTION(フリクション)』(日本能率協会マネジメントセンター)
■ 意思決定健忘症
私たちは以前、あるフォーチュン100の企業と仕事をした。その会社のCEOは、幹部たちが大変な思いをして下した意思決定をあとから蒸し返し、結論を翻す癖があった。幹部たちが調査や議論を重ね、これ以上の結論はないと確信したあとであるにもかかわらず。
たとえば、幹部たちがある会議で、販売する製品に会社名を表示すると決めたとする。多くの幹部たちは、これまでの会議でその意思決定はすでになされたと考えていたが、CEOはその後の会議でそれを何度もほじくり返した。まだ議論や意思決定は終わっていないとばかりに。
データや意見をもっと出すように要求し、さらに討議を重ねようとする。そして結局、幹部たちは過去の選択が正しかったという判断をもう一度下すことになった。
リーダーの「健忘症」のために、部下たちはこれまでと同じ道を何度も繰り返し通らなければならなくなり、時間が無駄に費やされる。そのせいでリーダーの判断に対する信頼も損なわれ、業務の進行が阻害される。部下たちは何かを指示されたとしても、上司はどうせ本気ではないと考え、そうして指示された業務を先延ばしにしたり、予想よりも計画に時間がかかると言ってみたり、中途半端にしか仕事をしなくなったりする。
どうせやり直しを命じられたり、やっぱりやめようと言われたりするだろうと思うからだ。前述の大企業では、エンジニアリングや生産部門の責任者たちは、CEOが決定事項を覆さないはずはないと考えていたため、製品の展開速度を抑えることにした。そのため、多くの製品に企業名とロゴが表示されるまでに、5年以上の時間がかかってしまった。






