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 理不尽な要求、無駄な手続き、使いにくいシステム――組織には、人の意欲と時間を奪う“摩擦”が溢れている。問題の本質は何か? どうすれば取り除けるのか? スタンフォード大学の組織論研究者が著した『FRICTION』(ロバート・I・サットン、ハギー・ラオ著、高橋佳奈子訳/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。

 15分会議、即日PC支給、会議ゼロの日――アストラゼネカが行った業務の“引き算”とは。

足し算という病

FRICTION(フリクション)』(日本能率協会マネジメントセンター

■ 引き算のための運動

 引き算のための運動とは、組織の大多数、あるいは全員を巻きこんで行う、継続的な取り組みである。私たちが所属するスタンフォード大学で、大手製薬会社のアストラゼネカが全社的に業務のシンプル化を推進した事例の調査を行ったところ、このような運動には引き算のためのさまざまなツールが組み合わせて活用されていることが分かった。

 この取り組みを主導したプシュカラ・スブラマニアンは、2015年に同社のセンター・フォー・シンプリフィケーション・エクセレンスを設立した。このセンターは、従業員1人につき1週間あたり30分を還元しようと、「ミリオンアワー・チャレンジ」を立ち上げた─治験や患者に対応するための時間を確保するための取り組みだった。このセンターが計算したところによると、アストラゼネカ社の6万人の従業員は、2017年半ばまでの2年に満たない期間で、200万時間以上の節約に成功した。

 プシュカラたちは、ルイス・ガースナーやスティーブ・ジョブズが用いたようなトップダウン型アプローチは、アストラゼネカでは良い結果をもたらさないことを理解していた。IBMやアップルと異なり、アストラゼネカは2011年から2016年にかけて収益や利益が落ち込んだとは言え、危機的状況にあるわけではなかったからだ。

 また、分権化された企業でもあり、上からの指示を受け入れるか、修正するか、無視するかについて、各地域のリーダーたちが大きな権限を持っていた。そのため、プシュカラたちは、指示を下すアプローチではなく、「プレイヤーとコーチ」型のアプローチを採用することにした。全組織を対象とした重要度の高い取り組みもいくつか展開したが、組織全体、あるいは局所における小さな変化が起こす効果の積み重ねこそが成功の鍵だとプシュカラたちは考えていた。