
「マネジメントの父」ピーター・ドラッカーがこの世を去って20年。今なお、多くの経営者やビジネスパーソンから支持される理由の一つに、社会や組織のマネジメントをテーマとして扱いながら、人としての成長を促す色あせないメッセージを残してきたことがある。自己実現や組織論、ビジネスマインドなど、彼の言葉から見えてくる「働くこと」の本質とは?
本稿では、『ドラッカーに学ぶ仕事学』(佐藤等著/致知出版社)より内容の一部を抜粋・再編集。働くことを通じて物事の見方や考え方を更新していくヒントを、ドラッカーの言葉から探っていく。
■「仕事」と「働くこと」は別――ドラッカーを読む意味

ドラッカーを読み始めて四半世紀が経ちます。「なぜかくも長い間読み続けられたのだろうか」と自問することがあります。
新しい視点と出合うためドラッカーの著作と対話(コミュニケーション)を繰り返してきた──それが一つの答えのような気がしています。具体例を二つ挙げます。
「組織は社会の道具である」
本書に何度も取り上げてきたこの言葉を、生涯サラリーマンだった父を持つ私は、衝撃をもって受け止めました。子供の頃から、父は組織に使われていると感じるような経験が自分の中にいつしか沈殿し、それを常識として長く生きてきたからなのでしょう。
自分の常識を打破し、新しいものの考え方、視点を手にした驚きは、喜びを伴い、のちの人生に影響を与えます。「組織という道具を使うにはどうすればいいのか」と考え続け、実践・行動する年月を過ごすようになったのです。
「仕事と働くことは別物である」
これも私を驚かせた言葉でした。これまでの人生で類似する言葉を分けて考えたことがなかったからでしょう。仕事(work)は事業を行うために必要なもので、顧客の要請によって生まれるものであり、自分とは別の客観的なものとドラッカーに教えられました。
これに対して働くこと(working)は、人の行為であり、個性に依存し、情緒的、主観的なものだといいます。人が仕事を行う(働く)という現象をぼんやりとしか見ていなかった我が身を振り返り、反省するとともに、物事を観る新しい視点を得た喜びに浸ったことが思い出されます。